外野補殺評価試案
- 2015/05/30
- 19:07
はじめに
外野補殺は、外野からの送球により走者をアウトにした際に記録されるものが多くを占めるため、
「外野手の肩の評価を表すデータ」としてよく扱われます。「捕手守備における盗塁刺」と意味合いが近いかもしれません。
厳密には守備者の能力を警戒し、走塁側が進塁を自重する状況もしばしば見られるため、
必ずしも肩の評価とイコールで結ぶことはできませんが、先進指標であるアームレーティングとの比較も行いながら
「補殺数がどの程度使えるのか」も考えつつ、この記事では外野補殺数の評価を試みます。
評価方法
試合あたり外野補殺数 = 外野補殺数 ÷ 外野出場試合数
外野補殺数を評価する最も原始的な式はこのように表記されます。「1試合≒9イニング=27アウト」であるため、
「27アウトの内、外野補殺という形でいくつのアウトに関与できたか」とほぼ同義とみなすことができます。
お馴染みのレンジファクター的な評価法ですが、
・27アウトの中には三振も含まれるため、投手陣の奪三振力が高い場合、野手の関与できるアウト数が少なくなる
・「出場試合数≠フル出場試合数」であり、1試合に出場したからと言って必ずしも9イニング守備に就いたとは限らない
という2つの欠点があるため、式中の試合数をBIP(インプレー打球数)に置き換えます。
奪補殺率 = 外野補殺数 ÷ BIP
「インプレー打球に対し、外野補殺をどれだけ記録できたか」を示すデータとなりました。
morithyさんの提唱する奪アウト率的な評価法となります。
ただし外野補殺を評価する場合、この方法でも排除できないバイアスはまだ存在します。
①外野への打球自体が少ない場合、外野手は補殺を多く記録できないと考えられる
②外野補殺は走者に対して発生するため、走者の数が少ない場合、外野手は補殺を多く記録できないと考えられる
①は外野刺殺の評価を行なう時にも生じる問題ですが、
セイバーメトリクス・リポート4のmorithyさんによるコラム「オールタイム・ゴールデングラブ賞への道」によると、
外野刺殺数と内野補殺数、内野刺殺数の間には負の相関がはっきりと確認できるのに対し、
外野補殺数と内野補殺数、内野刺殺数の間には明確な相関が見られませんでした。
ゴロヒットの処理でも外野補殺は記録できるため、投手の打球傾向は外野補殺数と関係が薄いのかもしれません。
以上から打球傾向による補殺機会への影響は限定的と判断し、補正は行わないことにしました。
②はmorithyさんの同コラム中の「重回帰分析による守備機会間の関係」には
とあり、ボックススコアからもこの傾向ははっきりと確認できるようですから、外野補殺を目的変数とした場合、他の外野補殺の係数は必ずプラスとなる。これは共通要因としてチームが許した走者数を考えるべき。走者が常に塁を賑わしているチーム、与四球や被安打が多い一方被本塁打が少ないチームはいずれの外野補殺も多くなりそうである。
投手陣が背負う走者数に対して補正をかける必要があると考えられます。
期待走者数 = 被安打 + 与四死球 - 被本塁打 × 1.4
一部の例外(無走者ライトゴロ)を除き、外野補殺は出塁した走者に対してのみ記録されるため、
走者数はこのように定義しました。投手指標LOB%の分母と同じ式となります。
「被本塁打にかかる係数は-1じゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、
本塁打は塁上の走者にも安全進塁権を与えることで外野手の補殺機会を奪う為、係数は「-1」より小さくなります。
本塁打が記録される際の平均走者数は、本塁打のLWTS係数から0.4人程度と考えるのが妥当と思われるため、
被本塁打にかかる係数はここでは「-1.4」としました。
失策もDERでの扱いと同様に失策出塁と見なしてここに加えてもいいかもしれません。
上記の奪補殺率にイニングあたりの期待走者数に応じた補正を上乗せして完成となります。
奪補殺率 = 左翼補殺数 ÷ BIP
期待走者数 = 被安打 + 与四死球 - 被本塁打 × 1.4
tm期待走者傑出 = tmイニングあたり期待走者数 ÷ lgイニングあたり期待走者数
tm期待左翼補殺 = tmBIP × lg奪補殺率 × tm期待走者傑出
tm左翼補殺PlusPlays = tm左翼補殺 - tm期待左翼補殺
※tmはチーム全体の合計値、lgはリーグ全体の合計値を示す。中堅、右翼も同様。
こうして「リーグの平均的な外野手と比べてどれだけ多くの補殺を獲得できたか」(外野補殺PlusPlays)が求められました。
2014年NPB外野補殺評価
2014年のチーム別外野補殺評価は以下のようになります。
球団 | 主な左翼手 | 左補PP | 主な中堅手 | 中補PP | 主な右翼手 | 右補PP |
巨人 | アンダーソン | -1.0 | 橋本到 | -0.2 | 長野久義 | 0.6 |
阪神 | マートン | -1.3 | 大和 | -1.2 | 福留孝介 | -0.5 |
広島 | エルドレッド | 6.1 | 丸佳浩 | 1.8 | 松山竜平 | -0.5 |
中日 | 和田一浩 | -0.9 | 大島洋平 | 2.6 | 平田良介 | 3.1 |
DeNA | 筒香嘉智 | -2.4 | 荒波翔 | -0.4 | 梶谷隆幸 | 0.4 |
ヤクルト | バレンティン | -0.6 | 上田剛史 | -2.5 | 雄平 | -3.0 |
ソフトバンク | 中村晃 | -2.8 | 柳田悠岐 | -0.0 | 長谷川勇也 | -0.4 |
オリックス | 坂口智隆 | -3.5 | 駿太 | -1.0 | 糸井嘉男 | 0.0 |
日本ハム | 中田翔 | 2.6 | 陽岱鋼 | -1.0 | 西川遥輝 | -0.8 |
ロッテ | ハフマン | 2.3 | 岡田幸文 | -1.0 | 角中勝也 | -0.1 |
西武 | 栗山巧 | 1.0 | 秋山翔吾 | 0.1 | 木村文紀 | -0.9 |
楽天 | ボウカー | 0.3 | 島内宏明 | 2.8 | 岡島豪郎 | 2.0 |
広島の左翼を除いて±3の間に収まっています。予想していたほど評価に差が付きませんでした。
セリーグは前述の広島左翼(エルドレッド)、中日中堅(大島)、中日右翼(平田)が好成績。
パリーグは日本ハム左翼(中田)、楽天中堅(島内)が好成績でした。彼らは送球で多くの走者を刺したと評価できるでしょう。

上記の12球団計36ポジションについて、外野補殺PPとDelta版UZRアームレーティングをプロットした図です。
(Delta版UZRは12球団を通しての評価であるため、同一リーグ6球団の合計値が0となるように調整を加えました。)
R^2値もまずますの値が出ており、肩の評価としてはそれなりに機能している可能性があります。
異質な傾向を示しているのが西武中堅(秋山)と西武左翼(栗山)で、近似直線から上に大きく外れています。
彼らはホールド(走者の自重)により利得の大半を稼いだと考えられますが、強肩と名高い秋山はともかく、
世間的には肩が弱いと評価されることの多い栗山がここまでのスコアを記録するのは信じがたい話に思えます。
この二人の存在により、両指標の相関は大きく下がる結果となりました。
通算外野補殺評価[1992-2014]
1992年以降の全外野手について、同様の手法で外野補殺の評価を行いました。
期待補殺数のチーム内での割り当ては推計イニングを基に行いました。
□左翼手補殺評価[1992-2014] (※補殺PP/1k = 1000推計イニングあたりの補殺PP)
順位 | 選手名 | 補殺PP | 補殺PP/1k | 年数 | 実働期間 | 出場 | 先発 | 推補殺 | 推計Inn |
1位 | 田口壮 | 22.2 | 3.8 | 12年 | 1992-2011 | 827 | 627 | 58 | 5828 |
2位 | 和田一浩 | 20.6 | 1.6 | 18年 | 1997-2014 | 1619 | 1589 | 92 | 13186 |
3位 | 中田翔 | 19.8 | 4.9 | 6年 | 2009-2014 | 491 | 472 | 45 | 4023 |
4位 | L.ミレッジ | 12.4 | 7.4 | 3年 | 2012-2014 | 202 | 202 | 23 | 1680 |
5位 | 田中幸雄 | 10.3 | 7.5 | 15年 | 1993-2007 | 184 | 169 | 18 | 1385 |
6位 | 坪井智哉 | 8.9 | 3.2 | 13年 | 1998-2010 | 392 | 330 | 26 | 2822 |
7位 | 森本稀哲 | 8.7 | 2.9 | 15年 | 2000-2014 | 529 | 296 | 26 | 2972 |
8位 | 土橋勝征 | 6.9 | 6.7 | 15年 | 1992-2006 | 221 | 100 | 13 | 1035 |
9位 | 島田一輝 | 5.0 | 5.9 | 9年 | 1995-2005 | 147 | 95 | 10 | 856 |
10位 | 前田智徳 | 5.0 | 1.1 | 18年 | 1992-2013 | 609 | 609 | 35 | 4717 |
654位 | 佐伯貴弘 | -5.1 | -1.7 | 18年 | 1993-2011 | 408 | 385 | 13 | 3010 |
655位 | 鈴木貴久 | -5.3 | -2.0 | 9年 | 1992-2000 | 376 | 313 | 15 | 2675 |
656位 | サブロー | -5.7 | -5.4 | 21年 | 1995-2014 | 162 | 124 | 2 | 1062 |
657位 | M.マートン | -5.8 | -2.1 | 5年 | 2010-2014 | 391 | 335 | 9 | 2822 |
658位 | 嶋重宣 | -5.9 | -3.4 | 13年 | 1997-2011 | 239 | 219 | 3 | 1767 |
659位 | 金本知憲 | -6.6 | -0.3 | 21年 | 1992-2012 | 2400 | 2379 | 114 | 20722 |
660位 | 内川聖一 | -6.8 | -1.6 | 14年 | 2001-2014 | 545 | 507 | 16 | 4230 |
661位 | 清水隆行 | -10.2 | -1.2 | 14年 | 1996-2009 | 1192 | 1032 | 43 | 8869 |
662位 | リック.S | -11.7 | -4.4 | 5年 | 2003-2009 | 350 | 335 | 5 | 2662 |
663位 | 鈴木尚典 | -19.6 | -2.1 | 15年 | 1993-2008 | 1127 | 1079 | 34 | 9183 |
左翼補殺評価1位は田口となります。この結果には納得と言う方も多いのではないでしょうか。
長い現役生活でプラスを積み重ねた和田が2位、外野併殺シーズン記録保持者の中田が3位に入ります。
中堅右翼ではプラスを記録しているサブローは、左翼では意外にも大きなマイナスを記録。
走者に過剰に警戒されて相当数のホールドを稼いでいた可能性が考えられます。
□中堅手補殺評価[1992-2014] (※補殺PP/1k = 1000推計イニングあたりの補殺PP)
順位 | 選手名 | 補殺PP | 補殺PP/1k | 年数 | 実働期間 | 出場 | 先発 | 推補殺 | 推計Inn |
1位 | 飯田哲也 | 24.5 | 3.0 | 15年 | 1992-2006 | 1205 | 857 | 84 | 8204 |
2位 | 金城龍彦 | 18.0 | 2.5 | 16年 | 1999-2014 | 949 | 792 | 61 | 7100 |
3位 | 柴原洋 | 15.4 | 2.7 | 15年 | 1997-2011 | 719 | 644 | 47 | 5643 |
4位 | 鈴木慶裕 | 14.4 | 6.2 | 6年 | 1992-1998 | 323 | 273 | 31 | 2336 |
5位 | 村上隆行 | 11.1 | 5.0 | 9年 | 1992-2001 | 370 | 241 | 27 | 2229 |
6位 | 大島洋平 | 10.1 | 2.0 | 5年 | 2010-2014 | 609 | 562 | 39 | 5034 |
7位 | 井出竜也 | 9.9 | 1.4 | 11年 | 1995-2005 | 912 | 796 | 54 | 7016 |
8位 | 波留敏夫 | 9.8 | 1.6 | 12年 | 1994-2004 | 790 | 687 | 53 | 6089 |
9位 | 坂口智隆 | 9.1 | 1.5 | 12年 | 2003-2014 | 761 | 711 | 42 | 6179 |
10位 | 新庄剛志 | 8.7 | 0.8 | 12年 | 1992-2006 | 1350 | 1293 | 92 | 11373 |
417位 | 緒方孝市 | -5.7 | -0.7 | 18年 | 1992-2009 | 1096 | 969 | 53 | 8480 |
418位 | 大友進 | -6.0 | -1.4 | 9年 | 1996-2005 | 571 | 503 | 21 | 4361 |
419位 | 秋山幸二 | -6.1 | -1.0 | 11年 | 1992-2002 | 722 | 715 | 37 | 6250 |
420位 | 松井秀喜 | -6.1 | -0.9 | 10年 | 1993-2002 | 813 | 803 | 41 | 7174 |
421位 | 益田大介 | -6.2 | -4.9 | 10年 | 1996-2006 | 201 | 144 | 4 | 1270 |
422位 | 長谷川勇也 | -7.0 | -1.5 | 7年 | 2008-2014 | 621 | 604 | 15 | 4791 |
423位 | 屋鋪要 | -8.8 | -6.6 | 4年 | 1992-1995 | 251 | 127 | 1 | 1332 |
424位 | 西村徳文 | -13.0 | -5.9 | 6年 | 1992-1997 | 297 | 249 | 2 | 2182 |
425位 | 谷佳知 | -17.3 | -2.2 | 18年 | 1997-2014 | 974 | 898 | 28 | 7755 |
426位 | 諸積兼司 | -18.0 | -3.8 | 13年 | 1994-2006 | 697 | 542 | 12 | 4772 |
中堅補殺評価1位は飯田。刺殺評価も1位であり、レンジ系守備評価では右に出る者はいない中堅手と言えます。
肩の評価が高くなくても、カバーの速さや送球の正確性で高い評価を残していると思われる選手も見られました。(大島、赤星など)
ワーストの方には緒方、秋山、松井と意外な名前が並んでいます。サブローと同じ事情でしょうか?
□右翼手補殺評価[1992-2014] (※補殺PP/1k = 1000推計イニングあたりの補殺PP)
順位 | 選手名 | 補殺PP | 補殺PP/1k | 年数 | 実働期間 | 出場 | 先発 | 推補殺 | 推計Inn |
1位 | 福留孝介 | 26.2 | 3.9 | 11年 | 1999-2014 | 837 | 766 | 67 | 6677 |
2位 | 柴原洋 | 9.8 | 2.1 | 15年 | 1997-2011 | 686 | 546 | 38 | 4792 |
3位 | 上田佳範 | 9.8 | 2.4 | 14年 | 1995-2008 | 716 | 437 | 40 | 4041 |
4位 | A.ガイエル | 8.2 | 2.6 | 5年 | 2007-2011 | 384 | 378 | 27 | 3203 |
5位 | 田中幸雄 | 8.1 | 6.5 | 15年 | 1993-2007 | 164 | 145 | 17 | 1244 |
6位 | サブロー | 7.3 | 1.3 | 21年 | 1995-2014 | 870 | 608 | 41 | 5520 |
7位 | 前田智徳 | 6.8 | 2.3 | 18年 | 1992-2013 | 374 | 371 | 29 | 2972 |
8位 | 牧田明久 | 6.6 | 3.1 | 9年 | 2005-2014 | 333 | 222 | 19 | 2117 |
9位 | 鉄平 | 6.2 | 2.5 | 11年 | 2004-2014 | 329 | 275 | 19 | 2447 |
10位 | 稲葉篤紀 | 5.5 | 0.4 | 20年 | 1995-2014 | 1589 | 1439 | 84 | 12439 |
603位 | 大﨑雄太朗 | -4.8 | -4.3 | 8年 | 2007-2014 | 169 | 133 | 2 | 1094 |
604位 | 大道典良 | -4.8 | -3.9 | 18年 | 1992-2009 | 179 | 143 | 5 | 1227 |
605位 | 亀山努 | -5.1 | -2.9 | 4年 | 1992-1995 | 255 | 200 | 8 | 1766 |
606位 | 林威助 | -5.2 | -4.9 | 10年 | 2004-2013 | 155 | 126 | 1 | 1058 |
607位 | 藤井康雄 | -5.4 | -1.9 | 11年 | 1992-2002 | 391 | 350 | 14 | 2905 |
608位 | 濱中治 | -6.1 | -2.4 | 15年 | 1997-2011 | 322 | 295 | 8 | 2473 |
609位 | A.パウエル | -6.9 | -3.3 | 7年 | 1992-1998 | 272 | 247 | 9 | 2053 |
610位 | 平野謙 | -7.1 | -2.9 | 5年 | 1992-1996 | 337 | 289 | 8 | 2428 |
611位 | 小関竜也 | -10.6 | -2.0 | 12年 | 1997-2008 | 760 | 609 | 21 | 5209 |
612位 | 桧山進次郎 | -14.3 | -2.2 | 21年 | 1992-2013 | 864 | 757 | 31 | 6547 |
元々肩の強い外野手が配置される傾向の強いポジションであり、
長期間に渡り固定される選手も少ないため飛び抜けて高い数値を記録する選手が少なくなっています。
右翼補殺評価1位は福留。傑出しにくいと言える状況の中、2位の柴原にダブルスコアを付けています。
ワースト3位に入っている平野は、セイバーメトリクス・リポート4のmorithyさんによるコラムでは
「歴代で最も多くの補殺傑出を稼いだ外野手」として評価されていますが、右翼では大きめのマイナスを記録。
西武移籍に伴い右翼に移ってからは、走者にリスペクトされる外野手になっていたと言えそうです。
外野刺殺評価試案 外野刺殺の評価法はこちら