話題となっているので、少し調べてみました。
そもそもピタゴラス勝率とは
ピタゴラス勝率 = 得点
2 ÷ ( 得点
2 + 失点
2 )
「ピタゴラス勝率」とは上式で示されるチームの得失点から勝率を予想するモデルです。
セイバーメトリクスの祖ビル・ジェームズ氏の手によって考案され、実際の勝率とも非常に高い相関を示すことから、
得失点と勝利を結びつける精度の高い指標として長らく使用されてきました。
「Pythagenpat勝率」と呼ばれる、同じアプローチで指数部分に改良を加えて精度を向上させた指標も開発されています。
Pythagenpat勝率 = 得点
n ÷ ( 得点
n + 失点
n )
指数n = (( リーグ総得点 + リーグ総失点 ) ÷ リーグ総試合数)
0.285
「チーム得失点は勝率よりもチーム戦力を的確に表現している」と一般的に考えられているため、
「ピタゴラス勝率は実際の勝率よりもチーム戦力を的確に表現している」、と言い換えることができるかもしれません。
ではピタゴラス勝率と勝率の乖離はどこから生じるのでしょうか?これは「投打の噛み合い」が原因として挙げられるでしょう。
投打が噛み合い、接戦をものにしたチームほど僅差勝ちが多くなるため、得失点(=ピタゴラス勝率)に対し勝率は高くなります。
投打が噛み合わず、接戦を落としたチームほど僅差負けが多くなるため、得失点(=ピタゴラス勝率)に対し勝率は低くなります。
こうした特性を踏まえて、今年の12球団のPythagenpat勝率を見ていきましょう。
2015年両リーグ12球団のPythagenpat勝率

ピタゴラス勝率の改良版であるPythagenpat勝率と実際の勝率の乖離が大きい順に並べてみました。
「Pythagenpat勝率+」は「実際の勝率 - Pythagenpat勝率」で、Pythagenpat勝率に対し実際の勝率がどの程度高いかを示します。
前述したように投打の噛み合っているチームほどこの乖離が高く出るため、阪神とDeNAは僅差勝ちが多く投打が噛み合っている、
逆にオリックスと広島は僅差負けが多く投打が噛み合っていないということを意味しています。
チーム全体の投打の噛み合いは、しばしば監督の采配能力と紐付けて評価されるため、
「Pythagenpat勝率(及びピタゴラス勝率)と実際の勝率の乖離は、監督の采配能力を表す」という意見が少なからず存在します。
こうした観点から見れば、阪神和田監督とDeNA中畑監督は采配能力が高く、
広島緒方監督とオリックス森脇監督は采配能力が低いと言えるかもしれません。
Pythagenpat勝率を用いた通史的な監督采配能力評価
次に、NPBの歴代監督についてPythagenpat勝率を用いた通史的な采配能力評価を行なってみます。
1950年以降のNPBにおける、「Pythagenpat勝率+」のシーズンベスト20傑は以下のようになっています。
□Pythagenpat勝率+シーズンベスト20傑[1950-2014]

世間的に「名将」と呼ばれることの少ない監督の名前も多く見られます。
全体を見渡すと中日の監督が多く入っている一方、名将が多いとされる巨人の監督が一人も入っていないのが興味深い点です。
1位は1954年の広島を選手兼任で率いた白石勝巳。絶望的な得失点差の中、チームの借金を13に抑えました。
現時点で2015年和田阪神のPythagenpat勝率+(0.122)は歴代1位を上回っています。
次はワーストの方を見ていきましょう。「Pythagenpat勝率+」のシーズンワースト20傑は以下のようになっています。
□Pythagenpat勝率+シーズンワースト20傑[1950-2014]

世間的に名将と呼ばれている監督は、むしろこちら側に多く入っているように見えるのが面白い点。
ワースト1位は1975年に巨人を率いた長嶋茂雄。この年は4番に王貞治を据えながら、球団史上最低勝率を記録しました。
こちらも現時点で2015年緒方広島(-0.112)、森脇オリックス(-0.113)は歴代ワースト1位を下回っています。
次はシーズン単位ではなく通算評価を見ていきましょう。「Pythagenpat勝率+」の通算20傑は以下のようになっています。
□Pythagenpat勝率+通算ベスト20傑[1950-2014] ※通算500試合以上 シーズン途中交代時成績は含めず

前述の観点からすれば、NPB歴代1位の名将は与那嶺要と言うことになるのでしょうか。
シーズン記録の方でも触れましたが、中日監督経験者がやたら多いのがとても気になります。
一般的にどのチームもホームゲームの方が勝率が高いため、ビジターよりホームの勝ち数が多くなります。
そのため、ピッチャーズパークを本拠地に構えるチームは基本的に僅差勝ちが多くなると考えられます。
ナゴヤドームは言わずもがな、ナゴヤ球場もピッチャーズパークである時代が長かったため、こういう傾向が現れるのでしょうか?
そう考えると、同じく投手優位球場を本拠地としている阪神監督経験者の名前も多く見られます。
□Pythagenpat勝率+通算ワースト20傑[1950-2014] ※通算500試合以上 シーズン途中交代時成績は含めず

「Pythagenpat勝率+」の通算ワースト20傑は以下のようになっています。
阪神,大映,東映で監督を務めた松木謙治郎がワーストの値を記録しています。
歴史的な名監督として度々名前の挙がる川上哲治、水原茂、三原脩などもこちら側に入っています。
「彼らの采配は悪かった」ということになるのでしょうか?
ピタゴラス勝率を用いた采配評価は妥当か?
「Pythagenpat勝率と実際の勝率の乖離は、監督の采配能力を表す」と言う仮定に基づきデータを出してきましたが、
記事のタイトルにぶち上げておきながら、この仮定の妥当性についてはここまで一切検討してきませんでした。
今度はこの部分について見ていきましょう。
セイバーメトリクスにおいて指標と能力の結び付きを調べる際には、「年度間相関」というものがしばしば用いられます。
今回の検討に当てはめると、「Pythagenpat勝率+が監督の采配能力を表す」のなら、
ある年に高いPythagenpat勝率+を記録した監督は、翌年も高いPythagenpat勝率+を記録することが予想されます。

1950年-2014年の間に2年連続して同チームで全試合監督を務めたのべ541人について、
横軸に該当年のPythagenpat勝率+、縦軸に前年のPythagenpat勝率+をプロットしたグラフとなります。
点の散り方を見ると年度間相関がかなり緩く、この指標の再現性はかなり低いと言えます。
これが監督の采配能力を表しているかと言われれば正直なところ疑問符を付けざるを得ません。
言い換えれば「監督の采配のみで接戦を多く制することは難しい」と言えるのではないでしょうか。
与那嶺,岡本,松木のように通算Pythagenpat勝率+が0から大きく外れている監督が存在するのも事実ですが、
128人を集めてじゃんけんトーナメントを行なえば、7連勝する人が必ず一人出てくるのと同じように、
これも運による偏りが生じれば、程度問題ではありますが起こりえない話ではありません。
厳密に検証したわけではないので、もしかしたら既知でない面白い傾向が潜んでいるかもしれませんが。
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