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「同じグラフを時間軸の方向に拡張したら、チームの世代交代が一望できるのではないか?」という安直な思い付きから、
2006年まで遡って各チームの年齢別打席配分を調べ、その推移をアニメーションで表現してみました。
以下の図は2006年-2015年の野手年齢層の推移を示したものです。縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。
それぞれの図から、セリーグ各チームが世代交代サイクルのどの段階にあるのかを読み取り、
どういう経緯で現在の状態になったのか、また今後に予想される展開について考察を行いたいと思います。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。2015年のチーム平均年齢27.3歳は直近10年間のセリーグにおける最低値であり、非常に若いチームであると言えます。
本来ならばベテラン帯に収まっていたであろう内川聖一と村田修一が移籍したのが遠因となっていますが、
共に移籍先では以前のようにバリューを生み出せなくなっており、怪我の功名という捉え方もできるかもしれません。
現在では筒香嘉智・梶谷隆幸・ロペスがチームのストロングポイントとなっています。梶谷に関しては中堅転向の動きもありますが、
いずれも守備のウエイトが比較的低い、衰えが遅いポジションである上に彼らの年齢もまだ若いため、
彼らが衰えるまでかなり猶予がある状況であり、それまでに捕手二塁遊撃を埋められるかが長期的な課題となります。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。加齢による成績低下が鈍く、一般的な成長曲線から外れた成績推移を見せる選手の多さが特徴でした。
ベテランの打席割合が高止まりする状況が長く続いたため、2006年から2014年はチーム平均年齢がリーグ最高値となりましたが、
2015年はセンターラインの代替が進んだため平均年齢は巨人阪神を下回り、2016年は一三塁の代替で更に若返る見込みです。
特に選手寿命が短い捕手・二塁・遊撃におけるレギュラーの長持ちぶりが際立っていましたが、
長い猶予がありながら、ここの代替がスムーズに進まなかったことが地盤沈下を起こした最大の要因ではないでしょうか。
若手の台頭で種は撒かれた状態になりましたが、ここで強みとなるくらいのバリューを生み出せなければ復権は難しいと考えます。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。東出輝裕・梵英心ら1982年度世代を中心としたブラウン政権時代のチーム構成から、
菊池涼介・丸佳浩ら1989年度世代を中心としたチーム構成へのスムーズな遷移が特徴となっています。
結果的にチームの復権にも繋がったことから、近年のセリーグでは最も成功した世代交代と言えるかもしれません。
現在、野村監督が構築した強固なセンターラインは年齢の観点から見ればピークを迎えている状態にあり、
その間に補強の容易な両脇(一塁・三塁・両翼)を整えられるかどうかが優勝の鍵を握っています。
前田健太の流出により状況が厳しくなったことは否めませんが、現在のメンバーで優勝できるチャンスはまだ残されています。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。昨季の平均年齢31.8歳はリーグ最高齢ですが、直近10年間の阪神では際立って高い値ではありません。
トレードや外国人獲得による選手補強の上手さゆえに、30歳前後で途中加入するレギュラー野手が他球団と比べて多く、
獲得チャンネルの多さを活かして毎年少しずつ人員を入れ替えることで、年齢構成の変動を抑えている節も見て取れます。
豊富な資金力により保持戦力の時点でアドバンテージを持っており、リスキーな手法を取らなくても優勝が狙える立場からすれば、
確実に上積みが狙えるところだけ入れ替える戦略は正しいと言えますが、優勝に一歩届かない状態が続いていることもまた事実です。
まだ戦力として計算できたマートンを放出し、世代交代を急激に進めているのもそうした背景があるのかもしれません。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。昨季の平均年齢31.7歳はリーグ最高齢の阪神とほぼ横並びで、巨人では直近10年間で最も高い年齢でした。
阪神と比べて他球団からの引き抜きがやや多い傾向にありますが、30歳前後で途中加入するレギュラー野手の多さと、
毎年人員の入れ替えを少しずつ行うことで年齢構成の変動を小さく抑えている点は共通しています。
前述の資金力の事情に加えて、阿部慎之助という強力な利得の供給源を長期間にわたって抱え込むことが出来たため、
安定性を重視する編成戦略は直近10年間で6回の優勝という形で実を結びましたが、近年では阿部の衰えが顕著となっているほか、
資金力の優位性低下で弱点に対するジャストインタイムの補強が難しくなったこともあり、今後は方針転換が求められます。
※グラフの縦軸は打席数、横軸は年齢を示します。年齢は該当年中に迎える満年齢としました。
※2006年-2015年においてシーズン300打席を2回クリアした選手を表記しました。高田政権時代には青木宣親世代を中心にしたチーム構成を目指していたことが見て取れます。
この戦略は在任中に実を結ぶことはありませんでしたが、後の小川政権時代にチーム力はピークに達したと考えられ、
2011年には大躍進を遂げることになりますが、準備期間の長さや青木の去就を考えるとここで優勝を逃したのは大きな誤算でした。
以降は青木世代からの脱却とチームの再構築を模索することになりますが、2度の最下位を経て戦力整備は着々と進み、
昨季の平均年齢28.6歳はDeNAに次いで低い数値であり、ヤクルトの直近10年間でも2番目に若い陣容となりました。
若手の絶対数自体は多くないものの、山田哲人と中村悠平が絶対的レギュラーに定着したことで平均年齢が大きく下がっています。
ところで各チームの年齢層の推移を眺めると、「思ったほど世代交代のサイクルが見えない」という声が上がるかもしれません。
成長曲線というファクターが存在する以上、「台頭→成長→円熟→衰退→台頭→...」というサイクルは宿命ですが、
それは一つのポジションに着目したときの話であり、各ポジションの位相の組み合わせでチーム全体のサイクルは決定されます。
当然のことですが、何も手を打たなければチームの平均年齢は毎年+1されます。
シーズンをまたいだ平均年齢の差分が+1より小さい場合、チームのどこかしらを若い選手に交換したことを意味しています。
それを踏まえて上記の平均年齢の推移を見ると、毎年どこかしらを少しずつ入れ替えているチームと、
数年周期で大規模な入れ替えを行っているチームがあることに気付くのではと思います。
前者は各ポジションのサイクル位相が分散しているチーム、後者は各ポジションのサイクル位相が集中しているチームです。
サイクル位相を分散させる戦略各ポジションの交代時期が同時に押し迫るよりは分散している方が手が打ちやすいため、
長期的に戦力を維持したい場合、各ポジションのサイクル位相は分散している方が基本的には好ましいと言えます。
豊富な資金力を持つチームは、保持可能な戦力的ポテンシャルの段階でアドバンテージを持っています。
人員交代に失敗してどこかのポジションに大穴を開けない限り、優勝争いに絡める立場にあることから、
こうしたチームにとってはサイクル位相の分散した年齢構成の方が好ましいのかもしれません。巨人と阪神はこの構成になっています。
サイクル位相を集中させる戦略一方で資金力に劣るチームは、保持可能な戦力的ポテンシャルの段階でディスアドバンテージを抱えています。
人員交代に失敗せずどこかのポジションに大穴を開けない程度では、優勝争いに絡めないことも度々ある立場であり、
資金力の問題で傑出した選手の長期的な保持も難しく、そもそも長期的な戦力の維持を求める必要性が低いとも捉えられます。
このような場合にこそ長期的な安定性を犠牲にして、チームの瞬間最大風速を高める戦略が有効となると考えられます。
優勝を狙うべき時期には優勝を狙い、入れ替えを図るべき時期には入れ替えに徹するメリハリを付けることで、
各ポジションのサイクル位相を集中させ、同じ瞬間に多くの選手が働き盛りの時期を迎えるような編成を行う戦略です。
広島とヤクルトが特定の世代に人員を集中させる戦略を取る背景には、このような狙いがあるのではないでしょうか。