記事一覧

当ブログについて

NPB2022

NPB2021

選手

打線

投手陣

球場

記録

分析

バントをしない"非攻撃型2番打者"? セリーグの犠打減少を考える

“スモールベースボール”は古い? 極端に減少したセの犠打数(ベースボールキング)
ただ、今年のセ・リーグを見てみると、バントが極端に少ない。チーム別では37犠打の中日が最多で、
6球団合わせても181犠打だ。(中略)リーグ全体の犠打数も昨季(5月24日終了時点)が265、2014年が214、
2013年が235、2012年が241と、最近5年間では今季が最も少ない。


極端に犠打が少ない今季のセリーグ

以下はセリーグのチーム別犠打数です。比較のため2015年のデータも載せました。

セ犠打20160630_1

打席数に占める犠打の割合は、全チームにおいて昨季から減少しています。
リーグ全体では2.3%から1.6%に減少しており、昨季比で30%ほど犠打が減少している様子が確認できます。

犠打は「意図すれば高い成功率で発生させることが出来る」「意図しなければ発生しない」ことから、
その増減に攻撃側の戦術的な意図が強く絡むという特殊な性質を持つため、
昨季から今季にかけて、各チームの犠打に対する意識に何かしらの変化があったと考えられます。

阪神とDeNAに関しては監督が交代しているため、新旧監督の好みの違いと解釈することもできますが、
監督が交代していないヤクルトと広島も犠打が大幅に減少しているのは興味深い点です。

セ犠打20160706   セ犠打20160705_2 

次は2014年以前と比較します。上の図は1950年以降のセリーグの犠打/打席の推移です。
1950年のセパ分立以降は犠打の少ない状況が長く続きましたが、1980年前後に犠打を多く用いる戦術が普及し、
以降は現代に至るまで打席に対する割合で2.0%強の水準を維持しています。

1980年以降に限定すると、2016年は史上2番目に犠打の少ないシーズンとなっており、
今季の犠打の少なさは「近年と比較して」というレベルではなく、現代野球においては歴史的な少なさであるようです。

どの打順で犠打が減ったのか?

ブラウン監督により2番に抜擢された前田智徳が「2番打者の極意」を聞いて回ったという話は有名ですが、
日本の野球では「各打順に異なる役割が求められる」という固定観念が強いため、
攻撃側の戦術的な意図が絡むイベントである犠打の数は、打者の出場打順と密接な関わりを持っています。

具体的にどの打順において犠打の数が減少したのでしょうか?
いつもお世話になっているプロ野球ヌルデータ置き場さんで各チームの打順別の打撃成績が確認できるため、
2015年と2016年における各チームの打順別の犠打/打席を調べました。

セ犠打20160705a  セ犠打20160705a - コピー 

DH制を採用していないセリーグでは、9番は実質的に投手専用の打順となっています。
犠打が得点期待値を下げるというのは広く知られている通りですが、一般的に投手は打撃が悪く、
犠打をしない方が得点期待値の毀損が大きくなると考えられるため、9番打者の犠打が多くなるのは合理的な傾向でしょう。※

昨季は2番打者がその9番打者に匹敵する割合で犠打を量産したのに対して、
今季は2番打者の犠打が激減している様子が見て取れます。
今季の2番打者の犠打割合は巨人の4.5%が最高値ですが、昨季でこれを下回るのはヤクルト(3.3%)だけという状況です。

セ犠打20160703_5a セ犠打20160705_3b 

こちらは2006年から2016年のリーグ全体の打順別の犠打/打席の推移です。
ラビットボールの余波が残る2006年を除けば、2番打者は9番打者より犠打が多い傾向にありましたが、
今季は例年の半分以下に留まり、以前ほど2番打者に対して犠打が要求されなくなった様子が窺えます。

一方で、8番打者と9番打者を除く他の打順でも犠打は減っており、
「2番打者に」というよりは、「一定以上の打撃が期待できる全ての打順に」犠打が要求されなくなったようです。
各チームが犠打という戦術を取ること自体に消極的になったと考えるのが妥当かもしれません。

犠打の減少と攻撃型2番打者

前述の通り、犠打の減少傾向は多くの打順で確認できるものの、
最も大きい煽りを受けたのはやはり2番打者で、率と数の両面で最も大きく犠打を減らしました。
「犠打を要求される機会の多さ」という点に関して言えば、2番打者の特殊性は相対的に薄らいだと言えます。

これは裏を返せば「犠打が上手くなければ使えない」という2番打者の制約が弱くなったことを意味しており、
首脳陣から見れば、2番打者として起用できる選手の幅が広がったことに他なりません。
こうした起用法の自由度の向上を受けて、2番打者の打撃傾向は変化したのでしょうか?

セ犠打20160705_9a  セ犠打20160705_9b 

2006年から2016年のリーグ全体の打順別の出塁率とISO(=長打率-打率)の推移です。
シーズンの環境の差を考慮するため、該当年の全打順平均が100となるように補正を行いました。
例年と比べて2番打者の打撃内容に変化はなく、出塁力と長打力の低い選手が配置される傾向は変わっていません。

首位打者を獲得した昨季の川端慎吾のような、
バントをしない攻撃力の高い2番打者を「攻撃型2番打者」と定義するならば、
そのような打者が増えている形跡は現状では確認できません。この辺りは一般的なイメージと齟齬があるようです。

犠打が以前ほど必要とされなくなったにも拘らず、2番打者の打撃内容に変化が見られないということは、
犠打や出塁力や長打力よりも重視されるスキルが他に存在することを示唆しており、
各チームの首脳陣がどのように2番打者を選んでいるのか、その判断基準が気になるところではあります。

本塁打が増えると犠打は減る

2番打者を中心に犠打が減ったことが分かりましたが、そもそもなぜ犠打を減らすという判断に至ったのでしょうか?
今季の他には2004年、2005年、1980年が犠打の少ないシーズンとなっていますが、
これらの年は歴史的に高い反発力を持つボールが使われたシーズンに他なりません。(Wikipedia:ボール(野球)が詳しいです。)

これはもちろん「反発力の高いボールは犠打がしにくい」という訳ではなく、
反発力の高いボールを用いたシーズンは本塁打が出やすく、犠打以外でも走者を進塁させる機会が多く発生するために、
アウトカウントを犠牲にしてまで走者を進塁させるメリットが薄い、という攻撃側の判断によるものだと考えられます。

セ犠打20160705_8a  セ犠打20160705_8b 

1950年以降のセリーグの犠打/打席とHR/打席の推移です。
犠打を多く用いる戦法が普及した1980年以降では、本塁打の増えたシーズンは犠打が減るという傾向が確認でき、
2000年以降に限れば決定係数は0.44、犠打の増減の40%強は本塁打の増減で説明できるようです。

しかし、今季は本塁打の出やすいシーズンではありません。
2016年のデータ(赤丸)は散布図において近似直線から大きく外れたところに位置しており、
本塁打の出やすさでは説明が付かないのが今季の犠打減少の特徴となっています。

優勝チームへの追随

かつて黄金時代の西武ライオンズが犠打を多用する戦術を採用した際に、
本塁打は増加傾向にあったにもかかわらず、西武に引っ張られるように他球団の犠打が増えたという事例がありました。
昨季のセリーグは最少犠打のヤクルトが制しており、他球団がこれに追随した可能性も考えられます。

 セ犠打20160705_8r 
※「犠打/打席+」はリーグ平均を100とした犠打/打席の傑出度を示す。

最も少ない犠打数で優勝したチームは過去に11例、21世紀以降に限定しても3例も存在します。
昨季のヤクルトのような「少ない犠打で優勝したチーム」は決して珍しくないようで、
これだけに減少の理由を求めるのは少々苦しいという印象を受けます。

・犠打を多用する監督(和田豊・中畑清)の退任
・犠打を好まない監督(金本知憲・ラミレス)の就任
・「2番川端慎吾」に代表される犠打の少なさを強調する起用法の存在

ヤクルトの優勝にこの辺りの要因が複合的に絡み合った結果、
各チームが犠打に対して消極的な姿勢を取るようになったのではないでしょうか。
これが短期的な傾向で終わるか、長期的な傾向になるのか、今後も注意深く見守っていきたいところです。

※2016年のデータは6月終了時点のものです。
RE24から見る無死1塁でのバントの損益分岐点 - Baseball Scholeでは、
 無死一塁で打者がOPS.332以下の場合、強硬策よりバントの方が得点期待値の毀損が少ないという研究結果が出ています。

2016年の特筆記事
2016年における2000本安打の展望
2016年広島打線、得点力向上の要因は?
2016年各種パークファクター
ここまでのパ・リーグ野手編成と野手運用の私的評価
バントをしない"非攻撃型2番打者"? セリーグの犠打減少を考える
24歳の若きスラッガー 山田哲人と王貞治を比較する

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

コンテンツ

■2022年シーズンデータ
 ポジション別wRAAと先発救援別RSAA
 セリーグ パリーグ 各種PF


■選手INDEX(球団/五十音/守備)
  De
  西 他消滅球団
 
 

■打線アーカイブ
  De
  西 他消滅球団
 歴代打線得点力評価[-2020]
 歴代打線守備力評価[-2020]

■投手陣アーカイブ
  De
  西 他消滅球団

■打撃に関する記録
 wRAA通算 シーズン チーム
 wRC+通算 シーズン チーム
 BABIP+通算 シーズン チーム
 K%-通算 シーズン チーム
 BB%+通算 シーズン チーム
 ISO+通算 シーズン チーム

■投球に関する記録
 通算 シーズン RSWIN
 通算 シーズン RSWIN(PF/DER)
 通算 シーズン RSWIN(リリーフ)
 RSWINで見る強力ダブルエース
 RSWINで見る強力勝利の方程式

■守備に関する記録
 守備得点

■球場に関する記録
 一軍PF 2021 2020 2019
 二軍PF 2019 2018 2017
 セPF 得点 本塁打 BABIP
単打 二塁打 三塁打
三振 四球 FIP
 パPF 得点 本塁打 BABIP
単打 二塁打 三塁打
三振 四球 FIP
 球場別 東京ド 後楽園
甲子園
バンド ナゴヤ球場
マツダ 広島市民
De 横浜 川崎球場
神宮
PayPay 平和台 大阪球場
西 メラド 小倉球場
京セラ GS神戸 阪急西宮
ZOZO 東京スタジアム
札幌ド 駒沢球場
楽天生命
日本生命 藤井寺

■RCWINに関する記録
 RCWIN歴代記録[-2020]
 通算 シーズン RCWIN
 通算 シーズン RCWIN(PF)
 通算 シーズン RCWIN(PF/POS)
 RCWINで見る強力打撃コンビ
 RCWINで見る強力打撃トリオ
 ポジション別
 

■傑出度に関する記録
 打撃歴代記録[-2020]
 通算 シーズン 打率傑出度
 通算 シーズン 出塁率傑出度
 通算 シーズン 長打率傑出度
 通算 シーズン OPS傑出度
 投球歴代記録[-2020]
 通算 シーズン 防御率傑出度
 通算 シーズン 奪三振率傑出度
 通算 シーズン 与四球率傑出度

■戦力分析とドラフト評価
 2019年一軍分析
  De 西
 2019年二軍分析
  De 西
 2019年補強・ドラフト評価
  De 西
 2017年戦力分析
  De 西
 2015年戦力分析
  De 西
 2014年戦力分析
  De 西
 2013年戦力分析
  De 西
 2015年二軍評価
  De 西
 2015年ファーム得点PFと選手評価
 打順の組み方を眺める
 2016年 セリーグ パリーグ

■選手の個人評価
 ポジション別に最優秀打者を選ぶ
 2017年 セリーグ パリーグ
 2016年 セリーグ パリーグ
 2015年 セリーグ パリーグ
 2014年 セリーグ パリーグ
 2013年 セリーグ パリーグ
 2016年打者の通信簿
  De 西
 2015年打者の通信簿
  De 西
 2014年選手別守備得点と総合貢献
 総括
 簡易WARの答え合わせ2014
 球団史上最高の4人を選ぶ
    De 西
 

■2018年の特筆記事
 現役打者の2000本安打達成確率を考える
 現役20代選手の通算安打(2018年版)

■2017年の特筆記事
 現役20代選手の通算安打(2017年版)
 「8番投手」は珍しいのか?
 2017年各種パークファクター
 2017広島打線は史上最強か?

■2016年の特筆記事
 2016年における2000本安打の展望
 2016年広島打線、得点力向上の要因は?
 2016年各種パークファクター
 パリーグ野手編成と野手運用の私的評価
 セリーグの犠打減少を考える
 糸井嘉男の成績低下リスクを考える


■2015年の特筆記事
 2000本安打の展望
 違反球の再来?2015年セリーグ
 こちらも違反球?2015年パリーグ
 秋山と柳田が挑む、もうひとつの日本記録
 秋山翔吾の安打記録更新の確率を考える
 「余剰安打」で見る、安打新記録の価値
 山田哲人は何位?二塁手シーズンHR記録
 二塁手史上最高の打撃?2015年山田哲人
 30HRと30盗塁の両立
 三浦大輔、23年連続安打
 谷繁元信、27年連続本塁打
 坂本勇人、7年連続二桁本塁打
 阪神タイガース、得失点差-59で貯金
 2015年はどのくらい打低だったのか?
 2015年各種パークファクター

■考察のようななにか
 □分析結果系
 貯金と得失点差の関係を整理する
 徹底比較 ダルビッシュ有と田中将大
 平成の大投手 三浦大輔
 ポスト松井稼頭央時代の遊撃手総合力評価
 恐怖の8番打者
 稲葉篤紀、現役引退表明
 0本塁打のスラッガー
 シーズン二桁本塁打に関する記録
 20盗塁カルテットに関する記録
 ピタゴラス勝率を用いた采配評価の妥当性
 鈴木啓示の先発勝利に関する疑義
 セリーグの野手世代交代に関する考察
 □分析手法系
 RSAAに守備力補正をかける
 守備イニング推定手法の改良案
 RRFの考え方
 外野刺殺指標試案
 外野補殺指標試案
 NPB版oWAR(試案)

■データ置き場
 通算 シーズン 守備位置別安打記録
 通算 シーズン 奪三振率
 通算 シーズン 与四球率
 通算 シーズン K%
 通算 シーズン BB%
 通算 シーズン wSB(盗塁得点)
 投手のシーズン本塁打記録
 セパ年度別 打低打高早見表
 年度別タイトル・表彰獲得者一覧
 平成時代のポジション別最多安打打者
 日本時代のイチローの全試合成績


■当ブログのデータについて
 Kazmix World
 日本プロ野球記録
 スタメンデータベース
 日本プロ野球私的統計研究会
 を参考にさせていただいています。

■お問い合わせ
 ご意見ご感想、間違いのご指摘など
 お問い合わせは コメント欄 及び
 ranzankeikoku.npbstats★gmail.com
 にお願い致します。(★を@に変換)

Twitter

検索フォーム

訪問者カウンター