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打順の組み方を眺める 2016年パリーグ編

はじめに

打順の組み方を眺める 2016年セリーグ編」に続いて、
打順に対して各チームの首脳陣がどのような考え方を持っているのかを捉えるべく、
「どのような選手を先発させたか」という情報から、各チームの打順の組み方を眺めていきたいと思います。

本記事では打順を特徴づける要素として総合的な得点生産力、出塁力、長打力にスポットを当てました。
数多い要素の中でこれらに着目する理由ですが、打線の得点効率と深く関わってくるためです。
この辺りの説明についてはセリーグの方と全く同じなので、既に読んだという方は適宜読み飛ばしてください。

先発打順別に得点生産力を見る

手始めに各チームが各打順において先発出場させた打者の平均wRC+を調べました[1]。
wRC+は「平均的な打者と比べた打席あたりの得点生産力」を表します。
打者の得点生産力は球場の影響を受けることが分かっているため、得点PFを元に補正を行っています[2]。

前の打順ほど多くの打席が回ってくるので、「得点の最大化を図る」という攻撃側の最終目的を考えると、
打席あたりの得点生産力の高い打者から前に並べることは打順の組み方の基本原則となります。

「それならwRC+順に並んでいる打順が最適打順なのか?」という話になりますが、
打順によって打席に入った時のアウト数と走者状況が異なることが統計的に知られているのに対し、
wRC+は平均的な状況下での得点生産力を表した指標であり、こうした状況の違いは考慮されていない点は注意が必要です。

そのためwRC+順に並べた打線が必ずしも最適打順になるとは限りませんが、
平均的な状況での得点生産力が大きく劣る打者は、どのような状況であっても得点を多く生産するのは難しいでしょうから、
こうした選手を上位打線に配置して、多くの打席数を与えていないかということは打順を見る上で重要な要素となります。

パwRC__20161025 パ名簿1a_20161025 
※各打順の平均wRC+に対して最も強く影響を与えた選手として、各打順の最多先発出場選手を併記しました。

日本ハム・楽天は最も得点生産力の低い打者を8番に配置したのに対し、
ソフトバンク・ロッテ・西武・オリックスはこうした打者を9番に配置しており、
最も得点生産力の低い打者をどの打順で出場させているか、という点で起用法に違いが見られました。

他の打順はチーム間のバラつきが小さく、どのチームも似たような配置となっています。
パは絶対的なレギュラーであっても打順を固定せず、一つの打順を多くの選手に担当させる傾向があるため、
成績が均質化されて突き抜けた特徴を示しにくいことが原因の一つかもしれません。

全体の傾向としては2番に得点生産力の劣る打者を配置するチームが多いようです。この点はセと共通していますが、
普段はリードオフマンとして起用される出塁力の高い打者(秋山翔吾、西川遥輝)を2番で先発させるなど、
セではあまり見られない起用法を行うチームもあり、パの2番打者の平均wRC+はセほど低い値にはなっていません。

先発打順別に出塁力を見る

そもそも、なぜ総合的な得点生産力を出塁力と長打力に分けて見るのかという話ですが、
これは「得点生産を出塁に依存する打者」と「得点生産を長打に依存する打者」では得意なアウト数と走者状況が異なるからです。
打順によってアウト数と走者状況が異なることを踏まえると、打順を見る上でこのタイプ分けは重要な要素となります。

Full-Countのコラム「2番打者には強打者を... よく聞く説の根拠とは?」では、
セイバーメトリクス研究家であるトム・タンゴによる、数理モデルを用いた打順研究が紹介されています。
この点について、このコラムでは以下のように打順を組むのが良いと指摘されています。

○最も重要[1・2・4番]
 1番・2番・4番はだいたい同じ程度に、最も重要な打順である。打線で最も優れた3人をこの打順で起用すべき。
 その中でも四球の多い出塁タイプは1・2番に、長打が多いタイプは4番にすべきである。
 なお、2番は併殺を避けるために走力のある打者だとなおよい。

○次に重要[3・5番]
 1番・2番・4番に次ぐ2人をここに配置すべき。2番と3番の打力は現実では逆転している場合が多いが、これは率直に誤りである。

○重要度はあまり高くない[6・7・8・9番]
 6番から9番は、1番から5番に比べると重要度が低い。打力の落ちる4人を、その中で打力が高い順に6番から配置すればいい。


こうした打順に関する研究を踏まえて、まずは出塁力について見ていきましょう。
今回は出塁力を代表する最もポピュラーな指標である出塁率に着目し、先発打順別の平均出塁率を調べました。
打者の出塁率も球場の影響を受けることが知られているため、出塁率-PFを元に補正を行っています[3]。

パOBP_20161025 パ名簿2a_20161025 
※各打順の平均出塁率に対して最も強く影響を与えた選手として、各打順の最多先発出場選手を併記しました。

出塁率の観点から見て理想的な組み方になっていたのが日本ハムと西武。
1番と2番に出塁率が平均を大きく上回る打者を配置できたほか、
全体を見ても概ね1番から9番までアウトになりにくい順に打者を並べる組み方になっていました。

一方で上記のセオリーから外れた組み方になっていたのがソフトバンクとロッテ。
7番まで出塁率の高い打者を配置できる野手層の厚さを誇りながら、
1番2番の出塁率が相対的に低く、得点効率の悪い組み方になっていた可能性が考えられます。

9番の出塁率の分散が大きくなっています。9番は1番の前を打つため出塁後の生還率が高く、
打席数の減少を考慮しても、出塁率の高い打者を配置すると得点効率を上げられる可能性があるため、
「上位打線との繋がり」と「打席減少」のどちらを重視するか、という点で各チームの判断が分かれたようです。

この問題はセリーグにおける「投手は何番に置くのが正解か?」という話にも通じます。
この点に関して、上で示したタンゴのモデルは「6番以降は打力の高い順に並べるのが良い」としており、
「上位打線との繋がりによる利得」が「打席減少による損失」よりも小さいことを示唆しています。

先発打順別に長打力を見る

次に打撃を構成するもう一つの要素である長打力を見ていきます。今回は長打力を代表する指標として、
「打数あたりの長打によるエクストラベース数」を示すISO(IsoP)に着目しました。
打者のISOも球場の影響を受けることが知られているため、ISO-PFを元に補正を行っています[4]。

パISO_20161025 パ名簿3a_20161025 
※各打順の平均ISOに対して最も強く影響を与えた選手として、各打順の最多先発出場選手を併記しました。

出塁率と比べると9番打者のISOの分散は小さくなっていることから、
9番打者の得点生産力の違いは出塁能力のバラつきに由来していることが分かります。
また長打力の高い打者を4番付近に集めている点、2番の長打力が低い点はセと共通しています。

出塁率と合わせて見ると興味深い配置になっているのが日本ハムで、
3番(大谷、田中賢)、4番(中田)、5番(田中賢)、6番(レアード)と出塁型と長打型の打者が交互に並んでいます。

数理モデルの研究によれば、同程度の得点生産力を持つ打者を並べる場合、
出塁型と長打型を交互に並べると得点効率が上がることが知られています。
栗山監督が意識していたかは分かりませんが、今季の日本ハムはこれを実践するような組み方になっていました。

打順の組み方を眺める 2016年セリーグ編 同年のセリーグ編

[1] wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
[2] wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。
[3] 出塁率の球場補正は2016年のデータが未集計なので、2015年、2014年、2013年の出塁率-PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。
    データが手に入らなかったためPF計算に使用した出塁率には犠飛が含まれていませんが、犠飛の少なさ(打席の0.5%程度)を考えると影響は軽微だと考えられます。
[4] ISOの球場補正は2016年のデータが未集計なので、2015年、2014年、2013年のISO-PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。

コメント

No title

個人的に西武の打順の組み方が美しくて好きです。ロジックの話に美的感覚を持ち込むのはどうかとも思いますが、
アウトになりにくい打者に多く打席を回す基本原則に沿った、右下がりのグラフを見るのは気持ちがいいものです。
西武と日ハムのwRCを見ると、3番と4番の打力が逆転しているように見えますが、
これは3番(浅村、大谷)の復調と4番(中村、中田)の不調が同時に起こったためで、
最終結果がわからない段階でこのような組み方になるのは致し方ないかと思います。
ケチをつけるなら中島の2番起用ぐらいでしょうか?

逆にソフトバンクは勿体無い組み方になっていますね。特に中村の下位での起用には疑問符が付きます。
いわゆるセイバー志向でない従来の日本的打順に沿ったとしても、トップに置きやすい打者だと思うのですが…
個人的には1番中村、2番柳田の打順を是非見てみたいです。

Re: No title

カンザスさん、コメントありがとうございます!

西武の打順の組み方は意図が明確で良いですね。
・「出塁率は前から良い順に並べる」
・「長打力は出塁率の少し後ろにピークを持ってくる」

http://www.tokyo-sports.co.jp/sports/baseball/545182/
中村の7番起用に関しては工藤監督本人のコメントが残っていて、
「1番2番には機動力のある打者を置きたい」、「中村はチャンスで多く回る打順で使いたい」という意図のようですね。
(ソース元が東スポなんですけど本人のコメントとして載ってるので流石に捏造はないはず・・・)

結果的に1番2番には中村よりも出塁率が1割以上低い今宮や福田が起用された訳ですが、
そもそも出塁できなければ機動力があっても活かしようがありませんし、
四球による出塁が多い中村に走者を帰す役割を期待するのもミスマッチな気がしてなりません。

返信ありがとうございます

福本豊の有名なエピソードの一つに、盗塁のコツを訊ねられて「まず塁に出なアカン」と答えたというものがあります。
笑い話として捉えられがちですが、これはまさに真理だと思いますね。
盗塁ばかりがクローズアップされがちですが、これだけ足を警戒される打者でありながら、
歴代のホームランバッターと遜色ない出塁能力こそ強調されるべきかと思います。

チャンスでの勝負強さに再現性がないというのはよく言われることですし、中村の適性についてもご指摘の通りです。
そもそも7番にチャンスがたくさん回るような組み方はおかしいだろうと突っ込むべきかもしれませんが。

面白い記事をありがどうございます

傑出度の高いバッターが中軸にいても、青い(打力の低い)選手が半分以上を占めるラインナップより、平均以上の打者を多く並べて切れ目を作らない打線の方が強力そうだということが、視覚的に理解できて面白かったです

Re: 返信ありがとうございます

カンザスさん、返信ありがとうございます!

福本豊氏の話は感覚的であるように見えて理屈が通っていることが多いので面白いですよね。
非常に頭の切れる方なのにそれを前面に押し出さないところも含めて、とても好きな野球人の一人です。

Re: タイトルなし

開聞岳さん、コメントありがとうございます!

そう仰っていただけると嬉しいです。
参考になりましたら幸いです。

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