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ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年セリーグ編


はじめに

この記事ではMLBにおいて権威のある表彰の一つであるシルバースラッガー賞に倣い、
打撃指標wRAAを用いて「打撃貢献度の最も高かった選手」をポジション別に選出したいと思います。



具体的な評価方法

選出基準は「同ポジションの控え選手と比較して、打撃でどれだけチームの総得点を増やしたと評価できるか」としました。
比較対象を控え選手とするのは「控え選手を出場させなかったこと」を評価に組み込むためで、勤続評価のようなものです。

CL平均2_20161103

上表は先発出場守備位置から推計した、2016年セリーグにおけるポジション別平均打撃成績です。
表中に示される「ポジションの平均的な打者」との比較を基軸にして、ポジション別に最優秀打者を決定していきます。

凡例1_20161104

控え選手を比較対象とする意義について、阪神の一塁手であるマウロ・ゴメスを例に説明します。
まずは両成績の比較により「ゴメスは平均的な一塁手と比較してチームの総得点を3点減らした」ことが分かります。

これを打撃貢献度として見ると「ゴメス(-3点)より未出場の一塁手(±0点)の方が打撃貢献度が高い」、
すなわち「ゴメスが試合に出場しなかった方がチームの総得点は高くなった」という結論になります。
この結論には違和感を持たれる方も多いのではないでしょうか。

実際には全てのチームが平均的な一塁手をいつでも用意できるわけではなく、
レギュラーの離脱により打撃の劣る控えが代わりに先発起用される場面が度々見られます。
ゴメスの場合も代役には控え選手が起用される可能性が高いでしょうから、
平均との比較をもって「ゴメスが試合に出場しなかった方がチームの総得点は高くなった」とは必ずしも言えません。

このように「選手が出場できなくなった時に実際に穴を埋めるのは控え選手である」という点を考慮するために、
今回は「同ポジションの平均的な控え選手」と比較して上積みすることのできた打撃貢献を最終評価としました。

CLゴメス_20161106

「平均的な控えが600打席を消化すると、平均的な選手と比べてチームの総得点を20点減らす」ことが統計的に知られています。
ゴメスが試合に出場しない場合、代わりに出場する控えは平均的な一塁手と比べてチームの総得点を18点減らすと推計できます。

すでに「ゴメスは平均的な一塁手と比べてチームの総得点を3点減らした」ことが分かっています。
「-18点」の損失が見込まれるところが「-3点」の損失で済んだため、その差に相当する「+15点」、
すなわち「平均的な控え一塁手と比べてチームの総得点を15点増やした」ことがゴメスの最終評価となります。



表の見方 例:マウロ・ゴメス(阪神)

CLゴメス_20161106

「一塁手」 として出場した打席で「平均的な控え一塁手」 と比べて、打撃で「+15点」だけチームの総得点を増やした
「指名打者」として出場した打席で「平均的な控え指名打者」と比べて、打撃で「+0点」だけチームの総得点を増やした
「一塁手」 として出場した打席で「平均的な一塁手」   と比べて、打撃で「-3点」だけチームの総得点を増やした
「指名打者」として出場した打席で「平均的な指名打者」  と比べて、打撃で「+0点」だけチームの総得点を増やした



ポジション別に最優秀打者を選ぶ

それでは上記の方法でポジション別に最優秀打者を選んでいきます。
今回は各ポジションで20試合以上に先発出場した全選手について調べました。

捕手(先発出場20試合以上)
CL捕手2_20161106

セリーグ捕手1位は原口文仁(阪神)。平均的な控え捕手に対して+37点の打撃利得を稼ぎました。
4月に支配下登録されるとすぐに正捕手に定着し、四番打者を任される場面もありました。

元々捕手は打撃を求められないポジションですが、近年では平均的な打撃成績が輪をかけて低迷しているため、
阪神は原口を捕手に固定できれば、打撃で莫大なアドバンテージを保持できる可能性があります。
多少の守備難には目を瞑っても固定するだけの価値はあるのではないでしょうか。


一塁手(先発出場20試合以上)
CL一塁r_20161106

セリーグ一塁手1位は新井貴浩(広島)。平均的な控え一塁手に対して+29点の打撃利得を稼ぎました。
昨季に続いて四番打者を任され、強力打線の一角として文句なしの好成績を残しました。

日本人打者にとっては外国人打者が競争相手となる難しいポジションです。
転向2年目の阿部慎之助に復調の気配が見え、一塁手として起用できる目途が立ったほか、
新加入のビシエドも打者不利の環境下で高い長打力を発揮するなど、なかなかの働きを見せています。


二塁手(先発出場20試合以上)
CL二塁r_20161106

セリーグ二塁手1位は山田哲人(ヤクルト)。平均的な控え二塁手に対して+79点の打撃利得を稼ぎました。
今季は日本プロ野球史上初となる2度目のトリプルスリーを達成しました。

ローズやスペンサーなど、シーズン単位では驚異的な活躍を見せた二塁手は存在しますが、
これだけハイレベルな打撃成績を3年続けて残した二塁手は前例が無いため、
そろそろ二塁手史上最高打者と評してもよいかもしれません。どこまで成績を伸ばすのか楽しみな選手の一人。


三塁手(先発出場20試合以上)
CL三塁r_20161106

セリーグ三塁手1位は村田修一(巨人)。平均的な控え三塁手に対して+50点の打撃利得を稼ぎました。
低調な成績が続いていましたが3年ぶりに3割をマークするなど復活のシーズンとなりました。

三塁手は巨人とヤクルト以外はレギュラーを固定できず、捕手に次ぐ貧打のポジションとなりました。
本来は打撃重視ポジションであることを考えると、今は穴場とも言える状況になっており、
そこで村田修一を擁する巨人が利得を独り占めした格好。他球団がこの差を詰められるかは来季のポイントになりそうです。


遊撃手(先発出場20試合以上)
CL遊撃r_20161106

セリーグ遊撃手1位は坂本勇人(巨人)。平均的な控え遊撃手に対して+67点の打撃利得を稼ぎました。
今季は首位打者を獲得し、遊撃手としては歴代最高の出塁率をマークしました。

シーズン終盤、攻守ともに不振の続いていた鳥谷敬が三塁手へコンバートされました。
歴史的な強打の遊撃手である鳥谷がポジションを移したことで、リーグ全体の形勢が変わってきそうです。
しばらくは坂本の時代が続きそうな雰囲気ですが、田中広輔はどこまで対抗できるでしょうか。


左翼手(先発出場20試合以上)
CL左翼r_20161106

セリーグ左翼手1位は筒香嘉智(DeNA)。平均的な控え左翼手に対して+67点の打撃利得を稼ぎました。
日本人打者の40HRは中村剛也以来、統一球導入後では史上2人目の快挙でした。

今季はポジションの平均的な打撃成績が最もハイレベルな、セリーグ最大の激戦区となりました。
これは外国人打者を配置する傾向が強まっていることが背景にあると考えられます。
その中で髙山俊は見劣りするのが否めませんが、シーズン終盤の長打力アップが印象的でした。来季の躍進に期待がかかります。


中堅手(先発出場20試合以上)
CL中堅r_20161106

セリーグ中堅手1位は丸佳浩(広島)。平均的な控え中堅手に対して+56点の打撃利得を稼ぎました。
昨季は三振が増加して不振に陥りましたが、そこからあっさり復活して見せました。

丸佳浩が1位で大島洋平が2位という結果はこれで3年連続となりました。
それだけ他のチームが中堅手の人材確保に苦労している裏返しでもありますが、
その中で成績を伸ばしたのが若手の桑原将志。両者の間に割って入る存在となるかもしれません。


右翼手(先発出場20試合以上)
CL右翼r_20161106

セリーグ右翼手1位は鈴木誠也(広島)。平均的な控え右翼手に対して+61点の打撃利得を稼ぎました。
22歳以下でのOPS10割は中西、張本、松井秀、掛布、清原に続く史上6人目の快挙でした。

22歳という年齢を考えると今後も長期間にわたる活躍が見込める上、
当分先のFA権取得までは年俸も抑制できるため、広島は強力なアドバンテージを手に入れた格好です。
ちなみに遊撃手から転向した現役右翼手レギュラーはこれで3人目。メジャーなコンバート経路となりつつあるようです。


投手(打撃貢献上位10人)
CL投手r_20161106

セリーグ投手1位は菅野智之(巨人)。平均的な控え投手に対して+4点の打撃利得を稼ぎました。
今季は規定到達投手では唯一となる打率2割をマークしています。

平均的な投手と比べて自身の打撃で援護点を4点分多く生み出したことを示します。
吉見祐治が引退し、前田健太がMLBへ去り、石川雅規が調子を落としたため圧倒的な投手スラッガーは不在の状態です。
投手はレギュラーと控えで打撃成績に差が無いと考えられるため、平均比較と控え比較は同じ数値になります。


総評
CL総合2_20161106

各ポジションの最優秀打者をまとめるとこのようになります。
外国人は不在で、30代も新井貴浩と村田修一のみ。急速に進む若手台頭を象徴する結果となりました。
特に山田哲人、坂本勇人、筒香嘉智、鈴木誠也の4人は歴史的な活躍を見せました。


ポジション混合評価
CL混合2_20161106

セリーグ混合1位は山田哲人(ヤクルト)。同ポジションの平均的な控え選手に対して+79点の得点利得を稼ぎました。
純粋な打撃成績では筒香嘉智が上回っていますが、二塁手の方が強打者が少ないため山田哲人が上となります。
これで全ポジションに対象を広げても3年連続で最優秀打者となりました。


2001年-2016年 ポジション別最優秀打者
CL遡る_20161108

同じ手法で2001年まで遡りました。2015年セリーグ編2014年セリーグ編2013年セリーグ編も参照。
21世紀のセリーグでは捕手の阿部慎之助、遊撃手の鳥谷敬が圧倒的な打撃貢献を残しています。
山田哲人は二塁手で3年連続、筒香嘉智は左翼手で2年連続、丸佳浩は中堅手で4年連続のトップとなりました。

ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年パリーグ編 同年のパリーグ編

球場補正については2014年-2016年の得点PF値を使用しました。
wRAAを計算する際に用いたwOBAの係数は「打撃指標wOBA」を参考にしました。
平均的な選手と控え選手の打力差は「600打席で20点分」としました。(参考:WAR Lords of the Diamond(Position Players))

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Re: No title

コメントありがとうございます!

落合博満は二塁手としては2度しか規定打席に到達していませんし、
Relative的な評価では二塁手時代のキャリアハイも上述の3人を下回っています。
通算では上がたくさんいますし、二塁手史上最高打者を考える時に落合の選択肢はないかなあというのが個人的な意見です。

どういうデータなのか分かりやすく、素人でもとても面白く見させてもらいました。
まだ若い山田坂本鈴木丸筒香いるセリーグは来年も楽しみですね。

最後に是非守備編など作って頂けたら嬉しいです。

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます!

ありがとうございます!そう仰って頂けてとても嬉しいです!
これだけ有望な選手が揃っていると、彼らの成績を追いかけるだけでもしばらく楽しめそうですね。

大変申し訳ありませんが、守備編については今のところ作成は考えていません。
個人で集計できるシーズン単位の守備データから、
各選手の守備能力について言及できることは非常に限られているというのがその理由です。

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