2016年打者の通信簿 千葉ロッテマリーンズ編
- 2017/03/07
- 08:00
ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年パリーグ編
前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:角中勝也(ロッテ)

平均的な野手と比べて1.57倍の得点生産力を持ち(wRC+)、1.21倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
0.59倍の三振を喫し(K%-)、1.30倍の四球を選び(BB%+)、1.05倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
2016年の角中勝也は平均的な左翼手に対して+19点、平均的な右翼手に対して+4点、
平均的な指名打者に対して+0点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは で着色しました。
ロッテ打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の11人を対象としました。
角中勝也 / 鈴木大地 / デスパイネ / 田村龍弘 / 清田育宏 / 細谷圭 / 岡田幸文 / ナバーロ / 中村奨吾 / 加藤翔平 / 荻野貴司
角中勝也 29歳/左翼手/607打席 個別記事

高BABIP・低三振率・高四球率をハイレベルで両立する出塁型強打者。
本塁打は少ないものの、二塁打と三塁打の多さから長打力を弱点としておらず、
両翼のような攻撃型ポジションでも見劣りしない、優秀な得点生産力を保持しています。
今季は左翼手を中心に全試合で先発出場。自身2度目となる首位打者も獲得しました。
BABIPがキャリア最高水準に高騰したのを除けば、打撃面では標準的なシーズンだったと言えます。
広角に打ち分け、内野フライが少ない打球傾向により高BABIPを記録しやすい打者ではあるものの、
今季のBABIPはキャリア標準値と大きく乖離していることから、来季は打率が低下する懸念が強いと考えます。
鈴木大地 27歳/遊撃手/583打席 個別記事

全ての要素を二遊間の平均以上にまとめるバランス型好打者。プルヒッターでフライが多いのが特徴。
年度間の好不調の波が非常に小さく、判で押したように同じ成績を残す安定感も持ち味。
強打者の少ないパリーグの二遊間の中では高水準の得点生産力を誇ります。
今季も遊撃手を中心に全試合で先発出場。これで4年連続で戦線離脱なしという結果に。
故障せずに守備負荷の高いポジションを守り抜く頑丈さも長所の一つです。
打撃内容もキャリア標準に非常に近く、例年通りの安定感を見せたシーズンでした。
平沢大河の台頭に加えて、ナバーロが二塁手に上手く収まらなかったこともあり、
来季は遊撃手から二塁手へのコンバートが確実視されています。
UZRを見る限りでは打撃で作った利得を守備によって半減させる状況が近年では続いていたため、
守備難易度の低いポジションへ移ることで、貢献をより一層大きくできるコンバートになることが期待されます。
打撃は二塁手として見ても申し分のない水準にあるため、あとはどれだけ上手く二塁を守れるかに懸っています。
アルフレド・デスパイネ 30歳/指名打者/570打席

パリーグではトップクラスの長打力を持つパワーヒッター。
選球眼とコンタクトは必ずしも優れないものの、持ち前の長打力により相手の警戒を引き出し、
三振を抑えつつ四球を選ぶことで出塁面にも強みを作り出しているのが特徴。
攻撃型ポジションの中でも最大の激戦区である、指名打者でも見劣りしない得点生産力の高さを誇ります。
今季は自身初の規定打席に到達するシーズンとなりました。
打撃内容では三振の減少が顕著でしたが、ボール球の見極めやコンタクトの数字には変化が見られなかったことから、
本人の変化よりも相手の警戒が強まった結果だと考えるのが自然かもしれません。
今季限りでの退団とソフトバンクへの移籍が確定しています。
リーグ内で本塁打が最も出にくい本拠地のチームから、本塁打が最も出やすい本拠地のチームへの移籍であり、
デスパイネは自らの持ち味である長打力を最大限に発揮できる環境へ身を移したことになります。
田村龍弘 22歳/捕手/430打席

現時点ではパワー不足が弱点となっている打者。
強い打球を飛ばせないためにBABIPと長打力が優れないのが短所である一方、
選球眼には光るものがあり、ストライク先行で攻められることが多い中で四球を多く選び取る点が長所です。
今季は正捕手としての地位を確立し、自身最高の稼働率を記録しました。
打撃貢献は近年の捕手として見ると十分な水準にあったものの、
BABIPの高騰に依存している部分が大きく、来季の再現性には疑問が残るのが現状です。
22歳とまだまだ上積みが期待できる年齢であるため、利得の維持に向けて更なるステップアップに期待したいところ。
強い打球を飛ばせるようになって打席である程度警戒されるようになれば、
持ち前の選球眼をより一層活かすことが出来るので、四球の大幅な増加も期待できます。
清田育宏 30歳/右翼手/417打席 個別記事


ライナーを飛ばすことに長けている中距離打者。高BABIPと長打力が持ち味。
年度間で調子の揺らぎが大きいという課題を抱えてはいるものの、
好調時には両翼のような攻撃型ポジションにおいても見劣りしない得点生産力の高さを誇ります。
今季は成績不振と故障離脱により稼働率を大幅に下げました。
ISO+の低下からは例年通りの鋭い打球を思うように飛ばせなかったことが窺えますが、
それを考慮してもBABIPがキャリア標準と乖離していることから、来季は打率回復が期待できると考えます。
細谷圭 28歳/三塁手/404打席


二軍では安定して優秀な長打力をマークしている打者。
現役20代打者では大田泰示(90HR)に次ぐ二軍通算74HRを記録している一方、
一軍ではその持ち味を上手く発揮できない、「一軍と二軍の壁」に悩まされている打者でもあります。
今季はレギュラー不在の一塁手・三塁手で先発出場を増やし、自身最多の88試合で先発出場しました。
ただしこうした攻撃型ポジションの選手として見ると得点生産力はやや物足りません。
今季の打撃好調はBABIPの高騰に後押しされた部分も大きく、成績維持及びレギュラー定着には更なる上積みが求められます。
ロッテでは一軍から二軍へ昇格した際に、他球団と比べてISO+を落とす打者が目立つのが興味深い点。
ロッテ二軍が本拠地としている浦和球場はファームの全本拠地で最も狭い球場であり、
一軍本拠地のZOZOマリンスタジアムと比較すると、フェンスが8m近く前に存在する箇所もあります。
一軍と二軍のレベル差に加えて、こうした球場環境の差も上乗せされることでISO+が大幅に落ちている可能性があります。
岡田幸文 32歳/中堅手/356打席

三振・四球・長打が非常に少ない極めてコンパクトな打者。
フライをほとんど打ち上げないゴロヒッターであり、俊足を生かした内野安打による高BABIPが持ち味。
しかしこうした長所は長打と四球の不足を埋め合わせるには至っておらず、中堅手としては物足りない得点生産力に留まります。
今季は例年と比べてバックアップ起用が減り、先発出場が増えたことで稼働率が上がりました。
打撃内容については例年通りの安定した標準的なシーズンだったと言えます。
走力が衰えてくる年齢を迎えつつあり、それに伴う内野安打の減少をどのようにカバーするかが今後のポイントとなりそうです。
ヤマイコ・ナバーロ 29歳/二塁手/340打席

現役打者ではトップクラスの選球眼を持つ打者。四球を選び取る能力の高さが持ち味。
長打力に関してはKBOでシーズン48HRの実績を考えると期待に応えたとは言い難い結果になったものの、
強打者の少ない二塁手の中では比較的高い得点生産力を記録しました。
もう一つの特徴が極めてフライの多い打球傾向。ポップフライの多さが極端な低BABIPを引き起こしているように見えます。
フライがアウトになりやすいZOZOマリンスタジアムとの相性は非常に悪かったと考えられるため、
フライ打者有利の本拠地を持ち、内野手に困っているチームは補強の選択肢に含めても良いかもしれません。
中村奨吾 24歳/三塁手/325打席

将来を期待される大卒2年目の若手打者。今季は二塁手・三塁手で先発出場を伸ばしました。
現時点では打撃を要素別に見ても明確な強みを作り出せておらず、
攻撃型ポジションの一つである三塁手でのレギュラー起用は難しいという印象を受けます。
昨季と比べるとボール球の見極めが改善し、四球を増やすなど成長の跡も確認できました。
また極度に低迷したBABIPからは極めて不運なシーズンだったことが窺えるため、
現在の打撃内容を維持することが出来れば、来季は打率回復がある程度期待できそうです。
来季は鈴木大地の二塁手コンバートを受けて、平沢大河と遊撃手レギュラーを争う見込み。
現時点でもBABIPが回復すれば遊撃手平均以上の打撃内容を残してはいるものの、
守備負荷の大きい遊撃手に移った上で、同じような打撃をできるかどうかは不透明な部分があります。
加藤翔平 25歳/中堅手/246打席


高BABIP・低三振率を両立する二軍屈指のアベレージヒッター。
細谷と同じく一軍では持ち味を発揮できない「一軍と二軍の壁」に悩まされている打者でもあり、
ストライクゾーン管理能力と長打力に抱える課題の多さから、得点生産力は中堅手としては物足りない水準に留まります。
今季は第二中堅手に定着して出場機会を大幅に伸ばしたものの、
最大の弱点であるボール球の見極めの悪さは解消できておらず、打撃では期待に応えたとは言い難い結果になりました。
レギュラー起用に耐えうる打撃を身に付けるために、ボール球を見送れる選球眼を磨きたいところ。
荻野貴司 31歳/右翼手/219打席 個別記事

通算100盗塁以上では歴代1位*の盗塁成功率87.6%を誇る、歴代屈指の盗塁の名手。
打撃ではコンタクト力の際立った高さにより三振率が非常に低いのが特徴。
四球と長打はやや少ないものの長所がそれをカバーしており、中堅手平均レベルの得点生産力を持っています。
一方で攻撃型ポジションである両翼として見ると、得点生産力は少し物足りません。
今季は清田の不振により右翼手の代役を任されましたが、度重なる故障により出場機会を伸ばせませんでした。
プロ入り以来、故障が絶えないことが選手としての最大の弱点と言えるかもしれません。
まずは故障せずにシーズンを通して一軍に帯同するのを目標としたいところ。
*盗塁刺が記録されていなかった時代を除く
2016年打者の通信簿
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※wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。
※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。