ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年セリーグ編前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:マウロ・ゴメス(阪神)

平均的な野手と比べて1.11倍の得点生産力を持ち(wRC+)、1.00倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
1.34倍の三振を喫し(K%-)、1.04倍の四球を選び(BB%+)、1.31倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
平均的な一塁手に対して
-3点、平均的な指名打者に対して+0点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは
で着色しました。
阪神打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の9人を対象としました。
ゴメス / 鳥谷敬 / 髙山俊 / 福留孝介 / 北條史也 / 原口文仁 / 大和 / 江越大賀 / 西岡剛
マウロ・ゴメス 32歳/一塁手/554打席
個別記事 
高三振率・高四球率・長打力の揃う典型的な重戦車型スラッガーのように見えて、
ライナー性の打球が多くフライBABIPも高いなど、中距離打者のような打球傾向を示す長距離打者。
高BABIPと高四球率により出塁面が弱点になっていないのが特徴で、一塁手の中でも見劣りしない得点生産力を誇ります。
今季は原口にスタメン出場を譲る場面も度々見られるなど、昨季以前と比べて出場機会を落としました。
打撃内容に劇的な変化が無い中でBABIPが低迷していることから不運なシーズンだったことが窺えます。
来季は打率回復が期待できたと考えられますが、外国人三塁手を補強する編成の動きもあり今季限りでの退団が決まっています。

現役打者ではトップクラスの選球眼を持つ出塁型強打者。
高水準のコンタクト力も持ち合わせているため、三振を抑えつつ四球を選び取る能力は非常に高く、
強打者の少ないポジションである遊撃手の中では歴代屈指の得点生産力を誇ります。
今季はコンディション不良により連続フルイニング出場がストップ。打撃面でも不振に陥りました。
打撃を要素別に見ていくと三振・四球・長打はそのままでBABIPのみが低下した形になっています。
運の要素も少なからず絡んでいるでしょうが、
引っ張り重視になったことでBABIPが下がったという指摘もありました。
遊撃守備でも精彩を欠く場面が度々見られたことから、来季は二塁手・三塁手での起用が中心となる見込み。
2015年以前の水準まで打撃を戻せればコンバート先でも平均以上の得点生産が期待できるため、
低下したBABIPをどこまで持ち直せるかが、レギュラーとして活躍していく上で重要なポイントとなります。
髙山俊 23歳/左翼手/530打席

2016年のセリーグ新人王。シーズン65打点は21世紀の新人最多記録。
コンタクトや選球眼の課題から、三振・四球・長打の三部門では強みを作り出せておらず、
強打者の集まる攻撃型ポジションである左翼手として見ると、現時点では物足りない得点生産力に留まります。
また得点生産を高BABIPに強く依存しているのが特徴的。
BABIPの特性からするとこの数値が実力によるものとは言い切れない部分が大きく、再現性の観点で不安を払拭できません。
仮に実力によるものでないとすれば、来季は打率を大きく落とす可能性があると考えられます。
月別成績を見ると8月以降だけで5HRを放つなど尻上がりに長打を増やしており、
これがアジャストによるものだとすれば、来季は成績向上が期待できるのではないでしょうか。
激戦区の左翼手で他球団の強打者に対抗するためにも、高BABIPの他にも武器となる強みを作り出したいところ。

抜群の選球眼を持つ中距離打者。四球と二塁打が非常に多いのが特徴。
全盛期には投手優位球場で本塁打を量産しており、中距離打者の延長線上にいる長距離打者という表現が正しいかもしれません。
強打者の比較的多い右翼手の中で見ても、歴代トップクラスの得点生産力を保持しています。
今季は休養目的で途中交代する場面も度々見られ、昨季と比較して出場機会を減らしました。
打撃面では四球と三振は高水準を維持したものの、本塁打を大きく減らしたことでISOが若干下がりました。
打球の質が劇的に改善したと考えにくい中でBABIPが高騰していることから、来季は打率低下の懸念が強いと考えます。
北條史也 22歳/遊撃手/438打席


※二軍成績
二遊間の中では優秀な長打力が持ち味。選球眼やコンタクトも良く明確な弱点がないのも特徴。
今季は一軍でこうした持ち味を発揮することに成功し、遊撃手・三塁手を中心に先発出場を大幅に増やしました。
強打者の少ない二遊間の中では標準以上の得点生産力を残しています。
来季は遊撃手レギュラー争いの最右翼として活躍を期待されています。
ただし二軍BABIPが高くないことから、安定して高BABIPを残せる打者ではないと推察されるため、
今季の一軍BABIPについてはフロックの疑いが強く、来季は三振を減らさない限り打率低下の懸念が強いと考えます。
原口文仁 24歳/捕手/364打席


※二軍成績
コンタクト力と長打力を高いレベルで両立する打者。
今季は開幕当初こそ育成契約だったものの、4月に支配下登録されるとすぐさま正捕手に定着しました。
強打者の少ない捕手の中では現役トップクラスの得点生産力を誇ります。
守備面とコンディションの不安から、来季は一塁手コンバートが確実されています。
昨季の打撃を維持できれば一塁手としても打撃利得が見込めるものの、
北條と同じ理由から高BABIPに関してはフロックの疑いが強く、打率低下の懸念が強いのが不安要素です。

低三振率・低四球率・低ISOの揃っているコンパクトな打者。
ただし三振を回避する能力が四球と長打の不足をカバーするには至っておらず、
二塁手と中堅手のどちらとして見ても、ポジション平均と比べて見劣りする得点生産力に留まります。
今季は二塁手レギュラー奪取の好機でしたが、打撃不振により出場機会を落としました。
コンタクトの悪化による三振増加が直接的な不振の原因だと考えられる一方、
ISOでは自身最高の数値をマークしており、長打力を伸ばそうとアプローチを変えた副作用で三振が増加したと推察されます。
江越大賀 23歳/中堅手/217打席


※二軍成績
抜群の長打力を持っているものの、二軍レベルでも三振の多い荒っぽい打者。
一軍でも目の覚めるような当たりの本塁打をしばしば放ちながらも、
平均の倍近く三振を喫する点がネックとなり、中堅手として見ても物足りない得点生産力に留まります。
今季は春先に大活躍したものの以降は調子を落とし、出場機会を伸ばすことができませんでした。
昨季と比較しても最大の課題であるコンタクト能力は改善されていません。
得意分野で見せるポテンシャルの高さは光るものがあるので、何とかして弱点を克服させて定着させたい打者の一人。

二遊間の中では優秀なストライクゾーン管理能力を持つ打者。
これは優秀な選球眼に裏打ちされたもので、上述の鳥谷敬と似通った打撃スタイルです。
以前は遊撃手の中では高水準の得点生産力を保持していたものの、現在では本来の実力を発揮できないシーズンが続いています。
今季はシーズン途中に左アキレス腱を断裂したことで戦線離脱。出場機会を伸ばすことができませんでした。
今回の故障により守備負荷の低いポジションにコンバートされる可能性が高くなりました。
レギュラーを勝ち取るためにはより高い打力が求められるため、来季は西岡のキャリアにおいて正念場のシーズンとなりそうです。
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※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。