2016年打者の通信簿 福岡ソフトバンクホークス編
- 2017/03/19
- 10:11
ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年パリーグ編
前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:中村晃(ソフトバンク)

平均的な野手と比べて1.31倍の得点生産力を持ち(wRC+)、1.01倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
0.48倍の三振を喫し(K%-)、1.88倍の四球を選び(BB%+)、0.78倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
平均的な一塁手に対して+1点、平均的な左翼手に対して+4点、平均的な右翼手に対して+2点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは で着色しました。
ソフトバンク打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の10人を対象としました。
中村晃 / 松田宣浩 / 内川聖一 / 今宮健太 / 柳田悠岐 / 長谷川勇也 / 本多雄一 / 鶴岡慎也 / 福田秀平 / 吉村裕基
中村晃 27歳/左翼手/612打席 個別記事

規定打席到達打者では最低のスイング率をマークする、「ひたすら待つ」待球スタイルが特徴的な打者。
現役打者ではトップクラスのコンタクト力も持ち合わせているため粘って四球を選ぶことに長けており、
通算出塁率.384は統一球導入後に台頭した日本人打者の中では柳田悠岐・山田哲人に次ぐ数値。
一塁手・左翼手・右翼手のような攻撃型ポジションでも見劣りしない、優秀な得点生産力を保持しています。
今季は左翼手を中心に全試合で先発出場を記録しました。
昨季と比較して下位打線での先発起用が増えたため、勝負を避けられてボールゾーンへの被投球割合が大幅に増加。
持ち前の選球眼と待球スタイルによりこれを利用して四球を大幅に増やした結果、出塁率をキャリア初の4割台に乗せています。
松田宣浩 33歳/三塁手/609打席 個別記事

元々フライの多い中距離打者でしたが、ホームランテラスの導入により長距離打者へ。
コンタクト率は現役打者では最低クラスながら、積極スイングでカバーして三振を抑えているのが特徴。
出塁率は平均程度であるものの長打力に起因する進塁能力が圧倒的で、強打者の多い三塁手の中でも優れた得点生産力を持ちます。
今季は最終回の代走交代が一度あったものの、三塁手としてはフルイニング出場をマークしています。
例年並みの本数の長打を放っていることから打球の質の劣化が考えにくい中でBABIPを落としており、
運の要素が悪い方向に働いたシーズンだったことが窺えます。来季はBABIPの向上による打率回復が期待できると考えられます。
内川聖一 34歳/一塁手/605打席 個別記事

高BABIPと低三振を両立する現役屈指のアベレージヒッター。
コンタクトの良さだけでなく積極スイングによっても三振を抑えているため、その副作用として四球が少ないのが弱点。
ただ強みとなっている部分と比べると損失は微々たるもので、攻撃型ポジションでも平均以上の得点生産力を誇ります。
今季はシーズンを通して故障離脱することなく、141試合において4番打者を務めました。
近年ではホームランテラスが導入されたにもかかわらずISOを年々落としていることから、
以前のように強い打球を飛ばせなくなっている形跡が確認でき、走塁面の衰えも重なって高BABIPを残せなくなってきています。
今宮健太 25歳/遊撃手/590打席 個別記事

二遊間では比較的優れた長打力を持つ一方、ポップフライも多いフライヒッター。
守備側にとって処理しやすい打球の多さからBABIPがあまり伸びない打撃スタイルであるため、
打率と出塁率などの出塁系指標が高くないのが弱点で、得点生産力は守備型ポジションの平均をやや下回ってます。
今季はシーズンを通して一軍に帯同し、遊撃手として136試合で先発出場しました。
2015年から本拠地に導入されたホームランテラスと非常に相性の良い打者であり、
他球団の二遊間の選手が同じ環境でプレーする場合よりも強くISOを伸ばして、打撃で負債を作る状態を解消しつつあります。
柳田悠岐 28歳/中堅手/536打席 個別記事

日本プロ野球史上最もBABIPの高い打者。通算BABIP.383はイチローを上回る歴代1位(通算2000打席以上)。
広角に打つ場合と比べると打撃側も守備側もグラウンドの狭い範囲を使ってプレーを行うことになるため、
一般的に左打ちのプルヒッターはBABIPが低くなる傾向にあることを考えると、(例:王貞治、前田智徳、松中信彦)
守備側にとってアウトに取ることが極めて難しい、強い打球をそれだけ数多く放っていることが窺えます。
強い打球を打たれることを恐れる守備側がボール先行での勝負を多く挑んでいることに加え、
近年ではボール球の見極めが改善したことで四球も急激に増えており、BB%も歴史的な水準に達しつつあります。
高BABIPと高BB%に起因する歴代屈指の出塁能力により、中堅手の中では歴代トップクラスの得点生産力を保持しています。
今季は指の骨折によりシーズン終盤に戦線離脱。出場機会を昨季から落としました。
前述の選球眼の改善により出場機会を落としたにもかかわらず四球は増加。
パワー面では昨季から数字を若干下げてしまったものの、出塁能力の高さに関しては更に磨きがかかっています。
長谷川勇也 32歳/指名打者/442打席 個別記事

高BABIPを持ち味とする中距離打者。ポップフライが少なくライナーの多い打球の質が武器。
ボール球の見極めは優秀ながらコンタクトに課題があり三振は少なくないものの、
それをカバーしうる高BABIPを持つアベレージヒッターであり、中堅手・右翼手としては平均を上回る得点生産力を誇ります。
今季は下半身のコンディション不良により、外野守備にはあまり就かず指名打者中心の出場となりました。
昨季のブランクによる影響がまだ抜けていないようで打撃は本調子を取り戻せておらず、
三振が増えてBABIPが下がったことで打率を落としており、指名打者として見ると物足りない得点生産力に留まりました。
本多雄一 32歳/二塁手/388打席 個別記事

ゴロが多くフライの少ない打球傾向と、持ち前の俊足を生かした内野安打の多さに起因する高BABIPが最大の武器。
パワーに乏しい打者の集まる守備型ポジションの選手であることを考慮しても長打力は物足りませんが、
高BABIPと盗塁による得点生産がその弱点を打ち消しており、二塁手としてはポジション平均を上回る得点生産力を誇ります。
今季はコンディション不良による戦線離脱があったものの、二塁手で92試合において先発出場を記録しました。
打撃内容に関してもおおむね故障以前の水準に戻しており、復調を印象付けたシーズンになりました。
少々気になるのが三塁打の減少。ホームランテラスの設置による外野フィールドの縮小が影響していると見られます。
元々本塁打をほとんど期待できない一方で三塁打によってISOを稼ぐ打撃スタイルだったため、
ホームランテラスによる本塁打増の恩恵を受けられないまま、持ち味の三塁打だけ封じられた状況になってしまっています。
鶴岡慎也 35歳/捕手/263打席

三振の少なさが打者としての持ち味。今季のチームでは内川・中村に次いで低いK%を記録しています。
コンタクトの良さだけでなく早打ちによって三振を防いでいる側面もあり、その副作用で四球も少ないのが弱点。
強打者の少ない捕手の中においてポジション平均を若干下回る得点生産力を保持しています。
今季はチーム最多の67試合で捕手先発出場。その他の試合でも途中出場する場面が多く見られました。
長打力が好調で二塁打が大幅に増加させておりISO+は自身最高値を記録しています。
年齢は35歳とベテランの域に入ってきていますが、少なくとも打撃に関してはまだ衰えを見せていません。
福田秀平 27歳/右翼手/239打席


32回連続盗塁成功の日本プロ野球記録を持つ盗塁の名手。
打撃ではボール球の見極めを元々課題としていましたが、近年では選球眼の著しい改善により四球が大幅に増加。
2015年以降は打者として起用される場面も目立つようになってきています。
今季はレギュラー不在の右翼手を中心に52試合で先発出場。打席数も自己最高の数値を記録しています。
本塁打が少ないため外野手として見ると長打力に物足りなさが否めませんが、
本多と同様に三塁打によってISOを稼ぐ打撃スタイルで、狭い本拠地と相性が悪いのが気の毒なところ。
バックアップ要員として見ると及第点の水準にはあるものの、
外野手レギュラーとして起用することを考えると、現時点では得点生産力は物足りない水準に留まります。
二軍では安定して高BABIPを記録している点が特徴的であり、一軍で同じ打球を飛ばせるかが定着のポイントになりそうです。
吉村裕基 32歳/右翼手/206打席 個別記事

かつてはシーズン30HRをクリアしたこともある長距離打者。
持ち前のパワーによるISOの高さを持ち味としているものの、選球眼の悪さによりストライクゾーン管理能力が弱点となっており、
一塁手や右翼手のような攻撃型ポジションで起用するには物足りない得点生産力に留まります。
今季はレギュラー不在の右翼手を中心に出場し、移籍後では最多となる打席数を記録しました。
近年では改善傾向にあったボール球の見極めが以前の水準に戻ったことに加えて、
持ち味の長打力も自身最低水準にまで落ち込み、増加した出場機会とは対照的に不調なシーズンだったことが窺えます。
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※wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。
※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。