2016年打者の通信簿 読売ジャイアンツ編
- 2017/03/23
- 08:00
ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年セリーグ編
前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:長野久義(巨人)

平均的な野手と比べて1.02倍の得点生産力を持ち(wRC+)、1.03倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
0.72倍の三振を喫し(K%-)、0.64倍の四球を選び(BB%+)、0.91倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
平均的な中堅手に対して+0点、平均的な右翼手に対して-4点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは で着色しました。
巨人打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の10人を対象としました。
長野久義 / 坂本勇人 / 村田修一 / ギャレット / 小林誠司 / 阿部慎之助 / クルーズ / 橋本到 / 亀井善行 / 立岡宗一郎
長野久義 32歳/右翼手/618打席 個別記事

二塁打・三塁打・本塁打を万遍なく稼ぐ、高BABIPと高ISOが持ち味の中距離打者。
かつては中堅手・右翼手ではトップクラスの得点生産力を誇りましたが、
ここ数年間は出塁関係の成績悪化が顕著であり、右翼手平均をやや下回るレベルに落ち込んでいます。
以前は選球眼の良さも持ち味としていたものの、近年ではボール球を振る割合が顕著に上がっており、
カウント悪化を積極スイングでカバーするようになったため四球が減少傾向にあります。
2012年頃は見逃し三振に対して寛容だったチーム方針が、現在では撤回されたことも影響していると見られます。
今季は一度も戦線離脱することなく右翼手を中心に140試合で先発出場しました。
コンタクト率とスイング率が共に上昇していることから、より早打ちでコンパクトなスタイルに移行したようで、
K%・BB%・ISOは自身最低値を記録。BABIP以外の総合的な打撃内容はキャリアワーストの数値となりました。
坂本勇人 28歳/遊撃手/576打席 個別記事

遊撃手としては歴史的な得点生産力を誇る打者。二遊間の中では高水準にある長打力が持ち味。
キャリア前半においてはボール球の見極めを最大の課題としていたものの、
近年では選球眼の改善により三振を減らしつつ四球を大幅に増やし、かつての弱みを強力な武器に変えつつあります。
今季は下半身の故障により先発を外れる場面も目立ったものの、シーズンを通して一軍に帯同。
本塁打性の強い打球を量産することに成功しISO+ではキャリアハイの数値をマーク。
勝負を避けられてボール先行の打席が増加したものの、こうした状況を上手く活かして四球を更に増加させました。
運の要素が比較的強いBABIPもキャリアハイに近い数値にまで高騰したことで、
遊撃手では日本プロ野球歴代最高となる出塁率.433、2002年の松井稼頭央に次ぐ同歴代2位のOPS.988を記録。
使用球や環境を考慮しても、シーズン単位では遊撃手歴代最高クラスの打撃貢献を残しました。
村田修一 36歳/三塁手/576打席 個別記事

横浜時代は本塁打王を2年連続で獲得するパワーを見せた長距離打者。
巨人移籍以降はISOが低下した代わりにコンタクトが向上し、高ISOと低三振率を両立する中距離打者に変貌しました。
シーズン間の調子の揺らぎが大きいものの、好調時には三塁手平均を大幅に上回る得点生産力を残せます。
今季は全試合において三塁手として先発出場するなど、出場機会を前年から大幅に伸ばしました。
シーズンを通して好調を維持し、ISO+は3年ぶりとなる高い数値をマークしています。
BABIPの向上は打球の質の改善だけでなく、運の要素も作用していると見られるため来季は打率低下の懸念が強いと考えます。
ギャレット・ジョーンズ 35歳/左翼手/465打席

セリーグトップクラスの長打力を持つパワーヒッター。その一方で出塁率の低さか課題となっています。
左打ちのプルヒッターであるため右に寄せたシフトを敷かれやすく、BABIPが伸びにくいことに加えて、
ボール球の見極めとコンタクトに優れないため三振と四球のバランスが悪いのが特徴。
今季は左翼手・一塁手を中心に121試合において先発出場を記録しました。
長打力による進塁能力が出塁能力を十分にカバーしており、こうした攻撃型ポジションでも得点生産力は見劣りしません。
来季は左翼手での起用がメインとなる見込みですが、今季と同じ打撃が出来れば他球団に対して利得を生み出せそうです。
小林誠司 27歳/捕手/458打席

捕手の中では比較的高水準にある選球眼を持つ打者。四球を選び取る能力が持ち味。
フライの多い打球傾向ながらパワーの乏しさからポップフライが多く、処理しやすい打球の多さからBABIPは低めなのが特徴的。
ちょうど長所が短所を打ち消すような形になっており、ポジションを考慮すると得点生産力は平均程度に留まります。
今季は捕手復帰の動きを見せていた阿部の故障を受けて正捕手に抜擢。捕手として唯一規定打席に到達しました。
昨季と同じK%・BB%・ISOに対してBABIPだけが低迷していることから不運なシーズンだったことが窺えます。
BABIPの影響で今季の得点生産力は捕手標準を下回ってしまいましたが、来季は打率向上により数字を戻すのではないでしょうか。
阿部慎之助 37歳/一塁手/387打席 個別記事

歴代捕手の中では野村克也に次ぐ得点生産力を誇る打者。攻撃型ポジションでも通用するパワーの高さが持ち味。
強振を多用する長距離打者の中では異例とも言える高いコンタクト率に加えて、
優秀な選球眼も兼ね備えるなどストライクゾーン管理能力も優秀で、捕手歴代1位の通算出塁率.370を誇ります。
今季は持病の首痛により開幕こそ出遅れたものの、5月末の復帰後は一塁手レギュラーを務めました。
昨季と比べてISOを落とした一方でコンタクト率を向上させるなど、よりコンパクトな打撃スタイルに移行した様子が見て取れます。
また打球速度が落ちたと見られる中でBABIPだけが高騰する形になっているため、来季は打率低下の懸念が強いと考えます。
ルイス・クルーズ 32歳/二塁手/314打席 個別記事

現役打者では最もゴロの割合が少ない極端なフライヒッター。
二遊間の中では優秀な長打力を持つ一方、ポップフライも非常に多いためBABIPが低いのが特徴。
選球眼の悪さを早打ちでカバーするスタイルで四球も少なく、出塁率の低さから得点生産力は二塁手の標準レベルに留まります。
今季は故障などで登録抹消を繰り返し、昨季から出場機会を落としました。
打撃内容がシーズンを跨いで安定している打者であり、出場機会こそ減ったものの例年通りの成績を残しています。
広い千葉マリンスタジアムから東京ドームへ移籍したにもかかわらず、ISOがあまり伸びなかったのは誤算だったかもしれません。
橋本到 26歳/中堅手/259打席


二軍では弱点を持たないバランス型好打者。強いて挙げるなら高BABIPが持ち味。
近年ではボール球の見極めの改善により高四球率も新たな強みとしつつあるなど、
二軍レベルでは克服すべき課題が存在しない状況にある、「一軍と二軍の間の壁」に悩まされている打者の一人。
今季はレギュラー不在の中堅手で出場を伸ばし、チーム最多の55試合で先発出場を記録しました。
BB%ではキャリア最高水準を維持しながらK%は初めて平均を割り込むなど、
自身の強みを徐々に一軍でも発揮できるようになってきていますが、現時点では中堅手として見ると得点生産力は物足りません。
来季はポジションの被る陽岱鋼の加入により、今季以上の更なるステップアップが求められます。
二軍で記録しているような高BABIPを残せれば定着の足掛かりになりそうですが、
ゴロがヒットになりにくい東京ドームが本拠地であるため、橋本のようなゴロ主体の打者はBABIPを伸ばしにくいのが痛いところ。
亀井善行 34歳/左翼手/240打席 個別記事

シーズン単位で打撃傾向が大きく変動する不安定な打者。
コンタクトが優秀で三振が少ないという点は一貫しているものの、四球と長打は好不調による増減が激しいのが特徴。
得点生産力は好調時には両翼標準を上回る一方、不調時には両翼標準を大幅に下回るのがネック。
今季は春先から調子が上向かず戦線離脱を繰り返し、昨季から出場機会を落としました。
特にボール球の見極め率の悪化による四球の減少が顕著となっています。
年齢も35歳とベテランの域に入ってきていることもあって、来季に成績を戻せるかどうかは不透明な状況です。
立岡宗一郎 26歳/中堅手/209打席


外野手として見ると四球と長打の不足が課題となっています。
二軍レベルでも打撃面では特定の部門に強みを作り出しているとは言い難い状況になっており、
一軍で外野手レギュラー起用するために越える必要のあるハードルは、同僚の橋本到よりも高いという印象を受けます。
今季は開幕時に中堅手レギュラーに抜擢されたものの、5月以降は長期離脱となり出場機会を落としました。
BABIPが大幅に下がったことを除けば、昨季と比較しても打撃内容に大きな変化はありません。
二軍の通算BABIPから考えても昨季の高BABIPはフロックである疑いが強く、定着に向けて新たな強みを作り出すことが求められます。
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※wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。
※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。