2016年打者の通信簿 北海道日本ハムファイターズ編
- 2017/03/25
- 08:00
ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年パリーグ編
前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:田中賢介(日本ハム)

平均的な野手と比べて0.95倍の得点生産力を持ち(wRC+)、0.98倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
0.50倍の三振を喫し(K%-)、1.28倍の四球を選び(BB%+)、0.35倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
平均的な二塁手に対して+3点、平均的な指名打者に対して-0点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは で着色しました。
日本ハム打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の10人と、リクエストのありました岡大海を対象としました。
田中賢介 / 中田翔 / 中島卓也 / レアード / 西川遥輝 / 陽岱鋼 / 大谷翔平 / 大野奨太 / 近藤健介 / 谷口雄也
田中賢介 35歳/二塁手/626打席 個別記事

山田哲人・浅村栄斗が台頭するまでは、二塁手としては現役最高のスラッガーだった打者。
優秀な選球眼とコンタクトにより三振を抑えつつ四球を選ぶことに長けており、
BABIPも高く安定していることから出塁能力は非常に高く、強打者の少ない二塁手の中では歴代屈指の得点生産力を誇ります。
今季は全試合で先発出場を記録するなど、昨季から更に出場機会を伸ばしています。
依然として二遊間の中では最高水準のストライクゾーン管理能力を見せている一方、
全盛期と比べるとISOとBABIPは下がってきており、以前と比べて鋭い打球を飛ばせなくなってきている兆候が見て取れます。
中田翔 27歳/一塁手/624打席 個別記事

現役打者ではトップクラスのISOを安定して記録する長距離打者。
プルヒッターであるため守備側の対策がしやすいのと、ポップフライが多い打球傾向によりBABIPが低いのが特徴。
他にも積極スイングで四球が少ないなど出塁面では課題を残すものの、並外れたパワーにより一塁手平均以上の得点生産力を持ちます。
今季は141試合において4番打者として先発出場するなど、100%に近い稼働率を残しています。
例年と比べると選球眼が不調でボールを見逃せなくなったために四球が減少。
持ち味の長打力に関しても、ISOで見ると直近5年間で最低水準に沈むなど本来の実力を発揮できないシーズンだったと言えます。
中島卓也 25歳/遊撃手/600打席

フライを打ち上げる割合が非常に低い極端なゴロヒッター。内野安打を多く稼ぐためBABIPが高いのが持ち味。
ファウルで粘ることで四球を取ることにも長けていますが粘った末に三振してしまう打席も多く、
出塁能力が長打力不足を埋め合わせるには至っておらず、遊撃手として見ると得点生産力はやや物足りない水準となっています。
今季は守備負荷の高いポジションである遊撃手でフルイニング出場を達成しています。
K%・BB%・ISOは例年通りの数値で標準的なシーズンを送ったと言えます。
BABIPが低調だったため得点生産は遊撃平均以下に沈みましたが、持ち前の守備能力でカバーできるマイナスに留まっています。
ブランドン・レアード 29歳/三塁手/598打席

フライ主体のプルヒッターでBABIPが低いのが特徴。中田翔とよく似た打撃傾向を示しています。
選球眼とコンタクトの粗さから三振と四球のバランスも優れないため出塁率は低いものの、
現役打者ではトップクラスのISOがそれをカバーしているため、三塁手平均を大幅に上回る得点生産力を保持しています。
今季は全試合で先発出場を記録するなど、昨季から更に出場機会を伸ばしています。
昨季と比較するとK%・BB%・ISOは据え置きだった一方でBABIPが改善しました。
来日1年目のシーズンは運の要素が悪い方向に作用し、実力に対して過剰に低いBABIPが出ていたと見るべきでしょう。
西川遥輝 24歳/左翼手/593打席 個別記事

スプレーヒッターかつ俊足でゴロが多い左打者。BABIPが非常に高く安定しているのが持ち味。
現役打者ではトップクラスのボール球の見極め率により四球を狙って稼げる点も特徴の一つで、
BABIPとBB%の高さからISO不足をカバーできるほど出塁率が高く、左翼手の中でも平均以上の得点生産力を保持しています。
今季は春先に不振に陥ったものの、調子を取り戻し1番打者に定着する活躍を見せています。
長打性の打球が減ったことで三塁打が減少しISOは自身最低値に沈んだ一方、
コンタクトを改善させてK%を維持したままBB%を上げるなど、より出塁特化の打撃スタイルに移行した形跡が見て取れます。
陽岱鋼 29歳/中堅手/555打席 個別記事

ライナーを打つことに長けている中距離打者。高BABIPと高ISOを両立する打球が持ち味。
コンタクト率が低く三振が多いため確実性に欠ける点が課題であるものの、
打球の質の高さから出塁能力と長打力は共に平均以上であり、他球団の中堅手に対して打撃でアドバンテージを築ける打者です。
今季は年間を通して中堅手レギュラーを維持し、130試合において先発出場を記録しました。
K%・BB%・ISOがキャリア平均値に近い標準的なシーズンだったと言えます。
好調だった2013年・2014年の水準までは戻せていないものの、故障による不振からの復調を印象付けたシーズンとなりました。
来季はFA権の行使により日本ハムから巨人への移籍が決まっています。
東京ドームはゴロがヒットになりにくい内野サーフェスを採用している形跡がPFの推移から確認できるため、
ライナーだけでなくゴロも多い陽岱鋼の打球傾向とは相性が悪く、以前ほどの高いBABIPは記録できなくなる可能性があります。
大谷翔平 22歳/指名打者/382打席 個別記事

ご存知、現役唯一の二刀流選手。野手の中でもトップクラスに高いISOが最大の持ち味。
打線の得点力向上に対する寄与の大きさの観点から見ると、打線に入っている平均的な投手を大谷に入れ替えることは、
平均的な野手を王貞治に入れ替えるのに匹敵するインパクトを持ちますが、投手として打席に入る機会が少ないのが惜しいところ。
今季は投手出場の傍らで指名打者として先発出場を重ね、自身最多の打席数を記録しました。
持ち味の長打力を更に伸ばし、相手方の警戒を引き起こしたことで四球も倍増させています。
得点生産力は最大の激戦区である指名打者でも遜色ないものであり、打撃面でもチームに莫大な利得をもたらしたと言えます。
大野奨太 29歳/捕手/351打席

捕手の中では比較的高水準にある長打力が持ち味。
ボール球の見極めにも優れているため、BB%が安定して捕手平均以上をキープしているのも特徴。
他球団が打てる捕手を用意するのに苦戦している現在のパリーグでは、打撃でチームに利得をもたらすことのできる打者です。
今季はチーム最多の98試合で捕手として先発出場し、直近5年間で最も高い稼働率を記録しました。
K%・BB%・ISOがキャリア平均値に近い標準的なシーズンを過ごしたと見られる中、
運の要素が強く絡むBABIPだけが高騰しているため、来季は打率低下の懸念が強いと考えられます。
キャリアにおける本塁打の半数以上を左投手から記録するなど、対左投手と対右投手で打撃成績に差が大きいのも特徴。
得意不得意が同僚の近藤健介とちょうど裏表となっているため、将来的に近藤を捕手で起用する場合、
先発投手との連携も考慮せねばなりませんが、相手投手の右左で使い分けるという起用法を視野に入れても良いかもしれません。
近藤健介 23歳/右翼手/291打席


優れた選球眼とコンタクトによって、三振を抑えつつ四球を選ぶことに長けている打者。
2015年の調子を維持できれば指名打者でも利得を生み出すことができるものの、
今季はISOを大幅に下げるなど調子を落とした結果、メインで起用された右翼手で負債を生み出す状況になりました。
オープン戦での起用を見る限り、来季も右翼手での起用がメインとなる見込み。
ある程度の水準までISOを回復させられれば、打撃で負債を作る状況は解消できそうなので復調に期待したいところ。
本人の守備適性は外野よりも内野にあるようですが、編成面の事情で最適なポジションに入れないのは残念な話です。
谷口雄也 24歳/右翼手/211打席


二軍では高く安定したBABIPを示す中距離打者。
強振を多用するタイプではないことを考えると、コンタクト率が高くないため三振が多いのが課題。
外野手レギュラーとして起用するためにはもう少し確実性が欲しいところです。
今季はレギュラー不在の右翼手を中心に49試合で先発出場を記録しました。
昨季と比べると二塁打・本塁打が減りISOが低下、四球も大幅に減少するなど不調なシーズンでした。
左投手を苦手としていることから起用が対右投手に限定されているため、出場機会を伸ばすためには対左対策が必須となります。
岡大海 25歳/右翼手/154打席


FA流出が確定した陽岱鋼の穴埋めを期待されている打者。
今季は下半身の故障で出場機会を落としたものの、打率.374を記録するなど大活躍を見せました。
右翼手として限られた打席数でチームに打撃による利得をもたらしています。
やはり目を引くのは異常値とも言える高BABIP。
今季における得点生産力の向上はほとんどがこの部分に起因したものとなっていますが、
二軍でもほとんど打席に立っていないため適性値が掴めず、どこまでが実力によるものなのかは現時点では解釈が難しいところ。
2016年打者の通信簿
2016年打者の通信簿 広島東洋カープ編
2016年打者の通信簿 読売ジャイアンツ編
2016年打者の通信簿 横浜DeNAベイスターズ編
2016年打者の通信簿 阪神タイガース編
2016年打者の通信簿 東京ヤクルトスワローズ編
2016年打者の通信簿 中日ドラゴンズ編
2016年打者の通信簿 北海道日本ハムファイターズ編 / 2015年版
2016年打者の通信簿 福岡ソフトバンクホークス編
2016年打者の通信簿 千葉ロッテマリーンズ編
2016年打者の通信簿 埼玉西武ライオンズ編
2016年打者の通信簿 東北楽天ゴールデンイーグルス編
2016年打者の通信簿 オリックス・バファローズ編
※wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。
※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。