2016年打者の通信簿 広島東洋カープ編
- 2017/03/31
- 18:00
ポジション別に最優秀打者を選ぶ 2016年セリーグ編
前の記事では打者が生み出す総合的なバリューについて見てきた訳ですが、
どこからそれが生み出されるのかについては触れませんでした。
攻撃と守備を同時に行えない野球において、勝つために攻撃側が取れる手段は得点を増やすことしかありません。
だから打者の優劣を考える場合には「得点をどれだけ多く生み出せたか」という物差しだけで事足ります。
一方で得点の生み出し方は打者によって十人十色であり、その多様性は野球の醍醐味でもあります。
各打者のこうした違い、打撃内容の強み弱みを眺めて語りたいというのが今回の趣旨です。
得点の生み出し方によってその後の得点生産力の推移も変わるので、その辺りについても言及できればと思っています。
「打撃内容」とは
とても曖昧な言葉なので、この記事におけるその定義について。
打撃を構成する要素は多岐にわたり、やろうと思えば際限なく細分化できてしまうので、
ここでは打者を特徴づける要素として次の4つに着目しました。
BABIP / K%(三振/打席) / BB%(四球/打席) / ISO(長打率-打率)
これだけ見ておけば、得点生産力を包括的に捉えられるというのがその理由です。
得点生産力は出塁力と長打力から構成されますが、出塁力は出塁率で説明が付き、長打力はISOで説明が付きます。
更に細分化すると出塁率は打率とBB%(四球率)で構成され、打率はBABIPとK%(三振率)で構成されます。
更にISOを二塁打・三塁打・本塁打へ細分化する考え方もあると思いますが、
同レベルのISOを残す打者は長打の内訳にあまり差が無いことが多く、
打者のタイプ分けを細かく行えるメリットより、煩雑になるデメリットの方が大きいと考えて今回は止めました。
表の見方について 例:田中広輔(広島)

平均的な野手と比べて1.11倍の得点生産力を持ち(wRC+)、1.04倍のBABIPを記録し(BABIP+)、
1.00倍の三振を喫し(K%-)、1.36倍の四球を選び(BB%+)、0.81倍のISOを記録した(ISO+)ことを示します。
平均的な野手を100とした倍率表記を取っていますが、
これは平均を評価の物差しにすることで年度間の環境差を補正するのと、
馴染みの無い生の数値をそのまま出すよりも優秀かどうかを判断しやすくするのが狙いです。
右端は平均的な同ポジションの野手と比べて、どれだけ得点のバリューを生み出したかを示しました。
2016年の田中広輔は平均的な遊撃手に対して+5点の利得を生み出したことを意味します。
その打者がポジションの中ではどれくらい優秀なのかの確認にどうぞ。メインポジションは で着色しました。
広島打者の打撃内容を眺める
それでは上記の方法で打撃内容を見ていきたいと思います。
今回はシーズン200打席をクリアした以下の11人を対象としました。
田中広輔 / 丸佳浩 / 菊池涼介 / 鈴木誠也 / 新井貴浩 / エルドレッド / 安部友裕 / 石原慶幸 / 松山竜平 / ルナ / 會澤翼
田中広輔 27歳/遊撃手/679打席

ライナーを打つことに長けている中距離打者。高BABIPと高ISOを両立する打球が持ち味。
選球眼の乏しさから三振に対して四球が少ない点が課題であるものの、
打球の質の高さから出塁能力と長打力は平均以上であり、他球団の遊撃手に対してアドバンテージを築ける打者です。
今季は守備負荷の高いポジションである遊撃手でフルイニング出場をマークしています。
課題だったボール球の見極めが劇的に改善し、昨季と比較して四球を倍増させたことで出塁率を大幅に伸ばしました。
運の要素が強く絡むBABIPこそキャリア最低水準でしたが、そこに目を瞑れば自己最高の打撃内容だったと考えます。
丸佳浩 27歳/中堅手/652打席 個別記事

高BABIPと高BB%を兼ね備える出塁型強打者。K%も強みとまでは言えないものの平均以下なのが特徴。
特に選球眼は現役打者ではトップクラスの優秀さを誇り、通算BB%+164は3000打席以上では現役1位。
また出塁型強打者が弱点にしがちなISO不足とは無縁である点も強みであり、中堅手としては歴代屈指の得点生産力を持っています。
今季は全試合で中堅手として先発出場を記録するなど、例年通りの高い稼働率をマークしました。
昨季において自身最低水準まで沈んだK%をV字回復させている点が目を引きますが、
これはコンタクトの改善ではなく積極スイングへの移行によるもので、早打ちになったことで三振だけでなく四球も減少しています。
菊池涼介 26歳/二塁手/640打席 個別記事

二塁手としては高水準にあるBABIPとISOが持ち味の中距離打者。
遅打ちでコンタクトに優れるため球数を稼げる反面、選球眼に優れず三振に対して四球が少ないのが弱点。
シーズン毎のBABIPの揺らぎから成績が安定しないという欠点を抱えるものの、二塁手としては優れた得点生産力を誇ります。
今季は141試合で二塁手として先発出場するなど、例年通りの高い稼働率をマークしました。
K%・BB%・ISOは例年通りの数値で標準的なシーズンだったと考えられる一方、
運の要素の強く絡むBABIPはキャリア標準値から乖離しており、来季はBABIPの回帰による打率低下の懸念が強いと考えます。
鈴木誠也 22歳/右翼手/528打席


コンタクト率の高さを持ち味とする中距離打者。三振が少ないため長打力と打率を両立できる点が強み。
今季はコンタクト率を維持したままパワーだけを大幅に伸ばして、リーグを代表する長距離打者に成長。
強打者の多い右翼手として見ても歴代屈指の得点生産力をマークする活躍を見せました。
注目すべきは22歳という若さ。シーズンOPS1.015は22歳以下では中西・張本・松井に次ぐ歴代4位の大記録でした。
一般的な成長曲線のピークは27歳であることを考えると、今後は更なる成長と長期的な成績の維持が期待できるため、
リーグの趨勢に長期的な影響を与えかねないアドバンテージを広島は手にした格好です。
新井貴浩 39歳/一塁手/513打席 個別記事

かつては本塁打を軸とする長距離打者でしたが、近年では二塁打を軸とする中距離打者に変貌しました。
逆方向へ長打を放つこともできるスプレーヒッターであるためBABIPがやや高い点も特徴。
三塁手時代にはポジション平均を上回る得点生産力を残していましたが、一塁手転向後は平均を下回ることが多くなっています。
今季は休場を挟みつつもシーズンを通して一軍に帯同。昨季から出場機会を更に伸ばしました。
長期的に好調を維持して本塁打を量産。ISOは直近5年間で最高となり復活を印象付けました。
当人に制御できない運の要素の高騰だけでなく、アウトになりにくい打球が増えたこともBABIPの向上に寄与したと見られます。
ブラッド・エルドレッド 36歳/左翼手/354打席 個別記事

現役打者ではトップクラスのISOを安定して記録する長距離打者。
選球眼とコンタクトは現役ワーストクラスであるため、四球に対する三振の多さを最大の弱点としているものの、
ISOの高さがそれをカバーしており、一塁手や左翼手のようなポジションでも平均以上の得点生産力を誇ります。
今季はシーズン中の右脚の故障により出場機会が伸ばせず、2年連続で規定打席に届きませんでした。
一方でコンタクト率が劇的な改善を見せたことで、K%は自身最低値となるなど成長の跡が見えます。
BABIPは打球の質が変化していないと見られる中で高騰しているため、来季は打率低下の懸念が強いと考えます。
安部友裕 27歳/三塁手/292打席


二遊間としては優秀なBABIPとISOを両立する中距離打者。走塁に秀でており三塁打が多いのが特徴。
一方で選球眼とコンタクトには課題を残しているため三振が多いのが弱点ながら、
二軍レベルでは二遊間平均を上回る得点生産力を安定して残しており、一軍でも持ち味を発揮できるかが焦点でした。
今季は梵英心の穴を埋める形で三塁手レギュラーに定着。自己最多の60試合で先発出場を記録しました。
得点生産力は三塁手平均を上回ったものの、BABIPへの依存が強いため再現性には不安を残しています。
現時点では右投手限定の起用法となっているため、出場機会を更に増やすためには左投手への対策が必須となります。
石原慶幸 37歳/捕手/289打席 個別記事

優れた選球眼による四球を選び取る能力の高さが持ち味。
一方で二塁打と本塁打が非常に少なく、強打者の少ないポジション事情を考慮してもISOは物足りない水準にあるため、
捕手レギュラーで起用すると打撃ではディスアドバンテージが生じてしまう打者です。
今季はチーム最多の83試合で先発出場し、會澤翼から正捕手の地位を奪還しました。
一軍に定着した2年目以降では自身初となる0本塁打に終わり、ISOはキャリア最低水準に沈むなど低調なシーズンでした。
BB%の回復についてもボールゾーンへの被投球割合の増加による寄与が大きいようで、打撃面では衰えが否定できません。
松山竜平 31歳/左翼手/275打席

攻撃型ポジションでも見劣りしない高ISOと、極めて優秀なコンタクト率を両立する中距離打者。
ストライク球でもボール球でも積極的にスイングしていくアプローチにより三振が非常に少なく、
安定したまずまずの高打率と長打力を両立できるため、一塁手や左翼手で起用しても見劣りしない得点生産力の高さを誇ります。
今季は左翼手を中心に58試合で先発起用されるなど、半レギュラー格の出場機会に留まりました。
過剰に警戒されて四球を増やした昨季からBB%は下落したものの、ISOは自己最高に近い数値をキープしています。
安部と同じく現時点では右投手限定の起用法がなされているため、出場機会を増やすためには対左対策が必須です。
エクトル・ルナ 36歳/三塁手/268打席 個別記事

ライナーを飛ばすことに長けている中距離打者。高BABIPと高ISOを両立する打球の質が持ち味。
辛抱強い待球スタイルでコンタクトに欠けるため三振が少なくないのが弱点ながら、
BABIPが非常に高く安定しているため打率も高く、三塁手としてはポジション平均を上回る得点生産力の高さを誇ります。
今季は安部の起用法との兼ね合いで、左投手が先発した試合を中心に三塁手として先発起用されました。
低下傾向にあるISOからは以前と比べて強い打球を飛ばせなくなっていることが窺えます。
打球の質の変化はBABIPを下げる要因にもなっていると考えられるため、以前のような高打率を記録するのは難しいと考えます。
會澤翼 28歳/捕手/220打席

捕手としては高水準にある長打力が持ち味のフライヒッター。2014年には200打席で10HRを記録しました。
長打性の飛球が多い反面ポップフライも多いためBABIPがあまり高くない点が弱点。
強打者の少ない現代のセリーグにおいて、他球団に対してアドバンテージとなりうる得点生産力を誇ります。
今季は捕手としての先発出場は50試合に留まるなど、昨季から出場機会を落としました。
BABIP・K%・BB%・ISOがキャリア標準値に近い標準的なシーズンだったと言えます。
打撃面は申し分ないレベルに達しているだけに、守備面でも首脳陣の信頼を勝ち取って出場を伸ばしたいところ。
2016年打者の通信簿
2016年打者の通信簿 広島東洋カープ編 / 2015年版
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2016年打者の通信簿 オリックス・バファローズ編
※wOBAの係数はBaseball-LAB「打撃指標wOBA」を参考にしました。
※wRC+の球場補正は2016年、2015年、2014年の得点PFを4:2:1で加重平均したものを元に計算しました。他要素については球場補正を行っていません。
※同ポジション平均比較wRAAは先発出場を元に算出した同年の同ポジション平均を比較対象としました。