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「8番投手」は珍しいのか?投手打順の歴史

DeNAラミレス監督が奇策!8番に投手、9番に倉本起用(デイリースポーツ)
(前略) 投手のウィーランドを8番、倉本を9番で起用。試合前、指揮官は「ウィーランドは非常にいいスイングをする。
野球IQが高い。倉本の調子は悪いが、9番にいることで次の1番につなぐという使い方」と、意図を説明した。 (後略)


今季、ラミレス監督の投手を8番で出場させる起用法が話題を集めています。
上の4月14日の起用は単発に終わり、翌日は「9番投手」に戻っていますが、
5月4日に再び「8番投手」の起用法を取ると、以降は現在まで19試合連続で投手を8番で出場させています。

DeNA2017_20170527.png

上の記事では「奇策」と表現されていますが、同じ戦法を取った指揮官は過去にも存在したのでしょうか?
投手を9番で出場させる常識があるからこの戦法が「奇策」と表現される訳ですが、
それは本当に常識なのでしょうか?仮に常識だとすればどのくらいの普遍性を持った常識なのでしょうか?

今回はその辺りを明らかにすべく、セントラルリーグにおける投手打順の歴史を見ていきたいと思います。
「8番投手は戦術的に有効か?」というのも気になるところですがひとまず置いておいて、
「8番投手はどれだけ珍しいのか?」という希少性の視点に限定して、投手打順を紐解いていきましょう。

21世紀における投手打順

手始めに21世紀のセントラルリーグにおける投手打順を調べました。
2001年から2016年にかけては13728試合が開催され、内900試合はDH制で投手は打席に入っていません。
投手が打席に入った12828試合における投手打順の内訳は以下のようになっています。

21世紀8番投手r_20170527

「9番投手」の割合は実に99.8%。それを外れたら「奇策」と評されるのもやむを得ないでしょう。
その一方「8番投手」は21世紀に入ってから昨季までに計28回記録されており、
ラミレス監督以前にも同様の戦法を取った監督が存在したことが確認できます。その28試合の詳細を下に示しました。

21世紀「8番投手」_20170522

21世紀に入ってからは阪神の岡田彰布監督、巨人の堀内恒夫監督が好んで「8番投手」を多用したようです。
他には広島の山本浩二監督、野村謙二郎監督、DeNA(横浜)の大矢明彦監督、中畑清監督が行っていますが、
いずれも順位の決まったシーズン終盤の消化試合か1試合のみの単発で終わっています。

19試合という長期間に渡って投手を8番に固定したケースは前例がないほか、
ラミレス監督の「8番投手」実施数(20回)は、既に今季だけで岡田監督と堀内監督の通算回数を超えており、
今季のDeNAは「21世紀において最も多く8番で投手を出場させたチーム」になっています。

20世紀における投手打順

もっと昔まで遡りましょう。次に20世紀のセントラルリーグにおける投手打順を調べました。
1950年から2016年にかけては54308試合が開催され、内900試合はDH制で投手は打席に入っていません。
投手が打席に入った53408試合における投手打順の内訳は以下のようになっています。

20世紀rrr_20170527

1980年代以前は8番に投手を入れる起用法は常に一定数行われていたことが分かります。
「8番投手」の割合が1%前後となり、ほとんど用いられない状態になったのは1990年代で最近のことです。
ピークの1954年には「8番投手」の割合は41.9%まで上昇。この年の洋松(現在のDeNA)は全試合で「8番投手」を実施しました。

その後は急速に「8番投手」の割合は下がっていきますが、1967年以降に再び盛り返しているのが目を引きます。
これは当時V9時代を迎えていた川上巨人が「8番投手」の戦法を用い、他球団が追随したことが影響しています。
「常勝球団の戦法を取り入れる」というトレンドは、後年の西武が多用した犠打で同じことが起こっていますね。

川上巨人r_20170523
※「全体割合」はセントラルリーグ全体において「8番投手」が用いられた割合を示す。

川上哲治監督がこうした戦法を取った意図は明確には分からないため推測することしかできませんが、
最強打者の王貞治が3番に入るという当時の常識からすれば歪な上位打線の組み方になっていたため、
通常なら4番打者が迎える走者アウト状況を3番打者の打席で再現するために、投手打順を1つ前倒しした結果かもしれません。

1980年代に入ると「8番投手」は再び下火となり、以降は盛り返すことのないまま現在に至ります。
「9番投手」が当たり前の時代において、今季のDeNAの起用はどれだけ突出しているでしょうか?
1980年以降における各チームの「8番投手」実施数を調べました。右側は1980年以降での「8番投手」実施数上位チームです。

20世紀8番投手_20170527
※「全体割合」はセントラルリーグ全体において「8番投手」が用いられた割合を示す。

近藤貞雄・長嶋茂雄・王貞治・堀内恒夫など、選手として川上巨人の「8番投手」時代を経験した監督が目立ちます。
選手時代に目の当たりにした成功事例が自身の采配に反映された結果かもしれませんね。

今季のDeNAの「8番投手」実施数は20回。46試合目にして既に1980年以降では2番目に多い回数となっています。
最多の1986年大洋でも「8番投手」を実施した試合はシーズンの1/5に留まることを考えると、
非常に速いペースで実施を重ねるDeNAは、「9番投手」が常識の現代では異質な起用方針を取っていると言えます。

過去を見ると「8番投手」を実施しても短期間で元に戻してしまっている事例も目立ちます。
その中でラミレス監督は現在の起用方針をどこまで貫くことが出来るのか、
その結果として横浜打線の得点力にどのような影響が出るのか、今後も注意深く見ていきたいところです。

追記(2017年6月13日)

8番投手r_20170613

6月13日時点でDeNAの実施回数は「26回」まで伸び、1977年以降では最多となりました。
非DH試合における実施割合はちょうど50%(26/52)となっていますが、
セントラルリーグで50%を超えた最後のチームは、V9時代の1969年巨人(66.9%)まで遡ります。

追記(2017年7月5日)

8番投手_20170705

7月5日時点でDeNAの実施回数は「40回」まで伸び、1970年以降では最多となりました。
川上巨人以降では「8番投手」を最も多く実施したチームとなりました。
1968年巨人はシーズン中に108回実施しましたが、DeNAは残り試合で全て8番で投手を先発させればこれに並びます。

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コメント

打力が劣る打者を打力が高い打者の前に置く根拠としては、アウトカウントが増えた状態で、優秀なバッターを打席に入らせないようにするためだと、「打線の組み方を眺める」の記事で書かれていたことを思い出しました

今の横浜打線は、打てるバッターが満遍なく並んでいると言うよりは、個々の打力の差が激しい状態なので、8番を投手に任せるのは、アウトカウントを調節するという意味では正しい選択なのかもしれませんね

No title

パリーグも気になりますね。
同じような傾向なんでしょうか。
あと、意外と2番投手がありそうでないんですね。
2番にバントを多様させるアプローチから派生させて投手にその役割を任せるという事はないんですね。

No title

2番投手は打数が多く回ってくるので1番が出塁しなかった場合
そこに打力の弱い選手を置くデメリットが大きいからでしょう
9番は次が1番という打力が高い選手なので
8番より打撃の良い選手を置くという考えもあるようです

No title

2010年オリックスが交流戦優勝した年は8番投手でしたね

No title

↑ありましたね。
オリックス時代の岡田監督の采配の中でも印象に残ってます。
2010年では公式戦DH無し制の12試合のうち11試合で8番投手起用をしてますが
それで8勝を挙げているにも関わらず
2011~2012年では一転して1試合も8番投手起用が無いんですよね。岡田監督の中で心境の変化でもあったのですかね?

Re: タイトルなし

開聞岳さん、コメントありがとうございます!
返信が遅くなりまして申し訳ございません。

DeNAの打順の組み方を見て抱いた個人的な感想なんですが、8番投手の試合で2番に梶谷がほぼ固定されていることを考えると、
3番を頂点にして周辺に強打者を集め、そこから最も離れた8番を底として周辺に打てない打者を集めているようにも見えますね。

強打者が打席に入る際にできるだけ貢献を最大化できるような状況(アウトカウント・走者)となるようにして、
打線の得点力を高めるためには強打者を一か所に集めることが重要だということが分かってきていますが、
打順の「疎密」がはっきりしているDeNAの場合、強打者を集める効果はより大きくなるように感じます。

Re: No title

コメントありがとうございます!
返信が遅くなりまして申し訳ございません。

他の方のコメントでも既に出ているのですが、
2005年以降だと交流戦時に「8番投手」を実施するケースが度々ありますね。
回数としてはオリックス岡田監督が最多です。

DH制導入前に関してはまだ全て調べられていません。
後々調べていきたいと思っています。

> 2番にバントを多様させるアプローチから派生させて投手にその役割を任せるという事はないんですね。
投手は打席に入った時にバントする割合は高いのですが、だからといって野手と比べてバントが上手い訳ではないのが理由かなと。
バント要員として配置するならバントのより上手い打者を置きたいですよね。

Re: No title

コメントありがとうございます!
返信が遅くなりまして申し訳ございません。

> 2番投手は打数が多く回ってくるので1番が出塁しなかった場合
> そこに打力の弱い選手を置くデメリットが大きいからでしょう
投手の打順を前倒しにする最大のデメリットはそれだと思います。

> 9番は次が1番という打力が高い選手なので
> 8番より打撃の良い選手を置くという考えもあるようです
直近10年のセ・リーグに限って言えば、9番打者の生還率は2番打者、1番打者、3番打者に次いで高いので、
出塁能力の高い打者を9番に配置するメリットというのは間違いなく存在するでしょうね。
問題は前述のデメリットと天秤に掛けた時に、どちらが大きいかということだと思います。

昨年のパリーグはこの点で各チームの判断が分かれて興味深かったですね。
日本ハムと楽天は9番に出塁に優れる打者を配置した一方、残りのチームは出塁率の最も低い打者を先発させていました。

Re: No title

コメントありがとうございます!
返信が遅くなりまして申し訳ございません。

> 2010年オリックスが交流戦優勝した年は8番投手でしたね
12試合中11試合で投手を8番で先発させていましたね。
DH制導入後(1974年以降)のパリーグでは最多の年間実施数になっています。
阪神時代も何度か8番投手を試していたようなので、岡田監督なりの持論があったのかもしれませんね。

Re: No title

コメントありがとうございます!
返信が遅くなりまして申し訳ございません。

> 2011~2012年では一転して1試合も8番投手起用が無いんですよね。岡田監督の中で心境の変化でもあったのですかね?
個人的な推測に過ぎませんが、打順を構成するパーツである打者の陣容が変わったのが大きいのではないかと思います。
岡田監督が「この面子なら8番に投手を入れた方が点が取れる」と判断したのが2010年の陣容で、
2011年と2012年はそうではなかったのではないでしょうか。2010年とそれ以降で陣容も大きく変わりましたからね。

ただ、やっぱり岡田監督のコメントを聞いてみなければ何とも言えないことではありますが。

No title

非常に面白い、貴重な集計だと思いました。川上さんに意図を聞きたいところですね。
投手の打順の影響については、The Book (2008; Potomac Books)のChapter 5で、マルコフ連鎖モデルによるシミュレーションで調べられています (Table 61, 63)。
打線にMLB平均の選手を均一に並べた場合、当然、投手は9番においたときが最も得点が高く(4.605点/試合)、8番だと下がります(4.582点/試合)。しかし、MLBの各打順の典型的な選手を並べた場合、投手9番だと4.835点/試合で、8番とスイッチすると4.847点/試合となり、少し得点が増えたようです。投手打順が増えることでフルシーズンでは0.023点/試合くらい減少して、上位打線の状況が良くなることで0.035点/試合くらい上昇したという感じでしょうか。1試合0.012点ではNPBやMLBのフルシーズン試合数程度では1.5点ちょっとなので検出は難しそうですが。

Re: No title

コメントありがとうございます!

ご丁寧に研究を紹介していただいて、ありがとうございます。
「どのような打者を打線に並べうるか」によってそれだけ結果が変動するということは、
投手打順を前倒しするメリット(上位打線と繋がる)とデメリット(投手打席が増える)がそれだけ拮抗しているのでしょうね。

全員が同じ平均的な打者を並べるか、それとも各打順で平均的な打者を並べるかというのは、
シチュエーションとして想定しうる中ではかなり極端な例だと思いますが、
現実的に起こりうる幅の中でも8番投手の方が良いケースと9番投手の方が良いケースの両者が存在するのかもしれませんね。

また平均的な打者がどれだけ打てるかによっても結果は変わるかもしれません。

No title

いつもデータありがとうございます。
Denaだと、倉本の得点圏打率も重要かと思います。
6,7番が1塁に居て8番がバントでも2塁にできれば、彼は.324という高打率ですからね。満塁では16/8ですし…
恐ろしく狙い撃ちの才能があるのかもしれません。

Re: No title

名無しさんさん、コメントありがとうございます!

8番に投手が入っている時の9番打者と、
9番に投手が入っている時の8番打者ではどちらがチャンスで多く打席が回ってくるんでしょうね。
確かに前打者のバントがセオリーである前者の方が多く回ってきそうな気もしますが、
投手打者だと2アウトからの進塁がほぼ期待できないので、その分チャンスが減りそうな気もします。

No title

投手を8番に置くと早い回から投手に打順が回りチャンスの場合などに代打を出されることで先発投手の投球回数が減って救援投手の登板数や投球回数が増える、という推測をネット上で見たのですが
実際どの程度その影響ってあるんでしょうかね。
仮に8番投手の影響で早い回から救援投手を使う状況が増えたとしても2018年のDeNAは先発投手と救援投手を比べると救援投手の方がスタッツがかなり優秀なことを考えると早い回から救援投手を投入することは失点数を減らすという意味ではプラスに働くようにも思えます。
(とはいえ救援投手の登板数やイニング数が増えることが故障に繋がるのでは?という心配はありますが)

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