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2021年に向けた戦力分析 阪神タイガース編


本稿では2021年に向けた阪神の戦力分析を行っていきます。
大まかに以下のような流れで進めていきますので、よろしくお願いいたします。

目次
 1. チームの貯金と得失点差
 2. 各ポジションの得失点差への寄与
 3. 優先強化ポジションの特定
 4. 優先強化ポジションに対する選手供給の見込み
 5. 総括




チームの貯金と得失点差

まずはAクラス入りや優勝にどの程度の上積みが必要か把握するため、チームの貯金と得失点差を確認します。
日本プロ野球では、「得失点差」と「貯金」が極めて強い相関関係を持つことが知られており、
「得失点差の1/5」で「貯金」をおおよそ近似できるという経験則があります。

一般的な目安として、優勝するためには「貯金20」、Aクラス入りには「貯金0」が必要です。
得失点差に換算して、優勝するためには「+100点」、Aクラス入りには「±0点」が必要になります。
それを踏まえた上で、初めにセ・リーグ6球団の貯金と得失点差を確認しましょう。

20210123_de1.png

阪神の得失点差は+34点でした。前述の関係式からすれば貯金7が想定される得失点差でしたが、
実際に記録された勝敗もこれとぴったりの貯金7となったことで2位となりました。
昨季は全体的に得失点差と貯金の連動性が悪いシーズンでしたが、阪神は得失点差通りの貯金になったと言えます。

今季のAクラス入りの目安となる得失点差±0点は既にクリアしています。
一方、優勝を狙うためには貯金20が必要で、そのためには得失点差で+66点の上積みが必要となります。



各ポジションの得失点差への寄与

次に、得失点差の最適な上積み方法を考えるために、「得失点差がどのポジションからもたらされたか」を見ていきます。
そのために仮想的な「全てのポジションが平均的な選手で構成されたチーム」を考えて、
このチームと比べて「各ポジションで得失点差を何点分上積みできたか」をここでは評価します。

全てのポジションが平均的な選手で構成されたチームは得失点差が±0点となります。
このチームと比べて「各ポジションが得失点差を何点分上積みできたか」が分かれば、その合計からチームの得失点差を説明できます。

得失点差を改善する手段は、得点を増やす、失点を減らすの2つがあります。
野手は平均と比べて「どれだけ打撃で得点を増やしたか」と「どれだけ守備で失点を減らしたか」、
投手は平均と比べて「どれだけ投球で失点を減らしたか」という観点で、各ポジションの寄与を評価していきましょう。

ここでは打撃はwRAA、守備はUZR、投球はFIPを使用して、「得失点差の改善に何点分寄与したか」を定量化しました。
UZRは1.02 - Essence of Baseballのデータを12球団平均基準からリーグ平均基準に変換して算出しています。
10点以上のプラスポジションを強み、10点以上のマイナスポジションを弱みとして強調しました。

20210228_T2.png

捕手は梅野隆太郎、三塁は大山悠輔、中堅は近本光司の働きによって強みとなった一方、
二塁手がかなり大きいマイナスを計上する弱点ポジションとなりました。
二塁手以外にも弱みとまでは言えないものの、小さめのマイナスを計上しているポジションが目立ちます。

近年の阪神は、捕手以外に強みポジションを作れないことが悩みの種でしたが、
大山と近本が野手のピークとされる20代後半に差しかかってきたことで、新たな強みとなったかたちです。
また、近年弱点となりがちだった遊撃手は、木浪のUZRが改善したことで弱点から脱却しました。

20210306_Tp.png

先発投手と救援投手は、どちらも強みとまでは言えないもののプラスを計上しました。
近年の阪神は投手力で安定的にプラスを稼ぐ体制をキープしています。
しかし、数年前までは救援投手が稼ぎの中心でしたが、先発投手が稼ぐチームに変化しつつあるようです。



優先強化ポジションの特定

次に、優先的に強化すべきポジションを特定していきます。
なぜチームの弱みと強みを見てきたかというと、「弱み」がそのまま優先的に強化すべきポジションとなるからです。
一般的にマイナスが大きいポジションほど強化の費用対効果が高くなるのがその理由です。

例えば、「±0点のポジション」を強化して得失点差を20点改善する場合、「+20点の選手」を連れてくる必要があります。
しかし、「-20点のポジション」に狙いを定めれば、「±0点の選手」を連れてこれば同じ改善効果を得ることができます。
「+20点の選手」よりも「±0点の選手」の方が手に入れやすいですし、必要な年俸も安く抑えられます。

ここまではそうした理由で2020年時点におけるチームの強みと弱みを見てきたわけですが、
ここから「翌シーズン以降に弱点となりそうなポジション」を考えるには、もう一つ考慮すべきファクターがあります。
それが「年齢」です。なぜなら年齢は翌シーズン以降の成績予測に活用することができるからです。

10代でプロ入りした選手は、デビューとともに勢いよく成績を伸ばしていきますが、
ある年齢になると成長が止まって成績が伸びなくなり、以降は加齢が進むほど勢いよく成績を落としていきます。
つまり、ポジションを構成する選手の平均年齢が他球団よりも高いと、それだけ急激な成績低下が予想されることになります。

ここでは縦軸を「得失点差への寄与」、横軸を「平均と比べていくつ高齢か」として各ポジションをプロットしました。
右に行くほど高齢のため「得失点差への寄与」の悪化が予想されるポジションであり、
左に行くほど若さのため「得失点差への寄与」の改善が予想されるポジションとなっています。
現状で既にマイナスを出していて、今後も悪化が予想される右下のポジションほど優先度が高いと言えるでしょう。

20210228_T4.png

相対的に右下に位置するポジションは、二塁手・左翼手・右翼手の3つ。
二塁手は現在のマイナスが大きいほか、左翼手と右翼手は高齢のため現状からの更なるマイナス拡大が予想されます。
これらは放置すると弱点となり続ける可能性が高いため、優先強化ポジションの有力候補となります。

二塁手は遊撃手から人材を回すことでも底上げを狙えます。
遊撃手で計上している無視できないマイナスの解消を確実にする意味でも、
二塁手単体ではなく、遊撃手も含めた二遊間全体の底上げを狙っていくのがベターです。

また、一塁手からはボーア、先発投手からはガルシアの退団が決まっています。
ただ、一塁手は2019年にプラスを出したマルテが控えているうえ、先発投手も現在の選手層ならガルシアの代替は容易です。
以上を踏まえると、二塁手・遊撃手・左翼手・右翼手の4つを優先強化ポジションとすべきでしょう。



優先強化ポジションに対する選手供給の見込み

次に、優先強化ポジションに対してどのような選手を供給できそうかを見ていきます。
選手を供給する手段は、二軍から引き上げる、ドラフトで獲得する、他球団から獲得する、の3つがあります。
これらの手段による選手供給の見込みをそれぞれ確認していきましょう。


二軍からの選手供給

まずは二軍の選手が記録した「得点を増やす能力」「失点を抑える能力」から、二軍からの選手供給について確認します。
ここまで書いてきたように、これらの能力は打撃・守備・投球の3項目によっておおむね説明できますが、
守備については最も高精度な指標であるUZRが手に入らないため、ここでは打撃と投球のみに着目していきます。

ここでは「打撃で得点を増やす能力」はwRC+、「投球で失点を抑える能力」はFIP-を使って定量化します。
どちらも二軍平均を100として、打者の得点創出力と投球の失点抑止力が平均の何倍かを示します。
wRC+が150なら二軍平均の1.5倍の得点創出力を持つ、FIP-が50なら二軍平均の0.5倍に失点を抑える能力を持つことになります。

以下では縦軸をwRC+およびFIP-、横軸を年齢として各選手をプロットしました。
過去の統計的な研究からは、打者は27歳まで、投手は22歳まで成長を続ける傾向があることがわかっています。
現状で好成績を残していて、かつ成長も期待できる左上に位置するのが、一軍への台頭が期待できる選手(プロスペクト)となります。

20210228_T5.png

左上のゾーンに位置するプロスペクトがほとんどいないため、
今後数年間は、二軍からの選手供給は全体的に他チームと比べて乏しいものになりそうです。
その中で優先強化ポジションに送り出せる可能性が相対的に高いのが、外野手の井上広大、遊撃手の小幡竜平の2人です。

井上広大は、高卒1年目としては高水準のwRC+をマークしました。
三振が極めて多いという弱点があるものの、それをカバーして余りある長打力を見せています。
今季の一軍定着はかなり難しいと見ますが、将来的に外野手でプラスを稼ぐスラッガーに成長する可能性があるでしょう。

小幡竜平は、課題だった打撃が二軍平均をわずかに下回るレベルまで改善しました。
打撃は一軍レベルに達するまでまだ時間がかかりそうですが、守備は既に一軍上位レベルのUZRをマークしています。
現時点でも守備要員を務める力はありますが、打撃が伸びれば遊撃手を強みに変える可能性があります。



ドラフトによる選手供給

次にドラフトで指名した選手について見ていきましょう。
ここでは阪神の指名選手と、セ・リーグ各球団の指名選手をまとめました。
また、育成選手は1年目から編成に影響を及ぼすほど一軍の試合に出場するケースは稀なので、ここでは記載していません。

20210228_T6-1.png20210228_T6-2.png

優先強化ポジションへの選手供給で言えば、ドラフト1位の佐藤輝明の獲得に尽きます。
大卒野手の4球団競合は原辰徳・岡田彰布しか前例がありませんが、2人の1年目の成績を考えると期待は大きいでしょう。
両翼メインで起用された場合、今季中にポジションの寄与をプラス転換させる可能性もあるのではないでしょうか。

一方、二遊間に対してはドラフト6位で即戦力の中野拓夢を獲得しました。
ただ、下位指名ということもあり、一軍定着には時間がかかると見ておいた方がよいかもしれません。

(2021/03/23訂正)
「大卒野手の4球団競合は原辰徳・岡田彰布に並ぶ最多タイですが、2人の1年目の成績を考えると期待は大きいでしょう。」
と書いていましたが、岡田彰布は6球団競合とのご指摘がありましたので訂正してお詫びします。ご指摘ありがとうございました。




補強による選手供給

最後に他球団から獲得した選手を見ていきましょう。
こちらも育成選手は1年目から一軍の試合に多数出場するケースが少ないため、ここでは記載しません。

20210317_t.png

外国人選手の獲得を中心とした積極的な補強が見られました。
優先強化ポジションに対しては、二遊間に山本泰寛、両翼にロハス・ジュニアを獲得しています。

山本泰寛は打撃が二遊間の平均水準をやや下回っているのがネックですが、
二塁守備は標準的なレベルにあり、2019年の水準まで復調できれば二塁手のマイナス圧縮をある程度期待できます。
一方で遊撃手としては守備のマイナスが大きく、起用は難しいと見たほうがよいかもしれません。

ロハス・ジュニアは、KBOでトップレベルの打撃成績を残した強打者。
年俸が2億6000万円と高額で、これは両翼のどちらかをプラスに転換するレベルでないと回収できません。
フロントにもそれだけの自信があると見られますが、KBOのスラッガーはNPBで通用しないケースもあるのが気掛かりなところ。



総括

優先強化ポジションは、二塁手・遊撃手・左翼手・右翼手の4つ。
特に左翼手と右翼手に対しては、ドラフト1位を使って佐藤輝明、高額契約でロハス・ジュニアを獲得する動きが見られました。
将来の成績低下の予防に向けて、課題となっている高齢化の解消に筋道がついたかたちです。

一方、二遊間も手は打たれたものの、両翼と比べて底上げは乏しいものとなりそうです。
阪神が今季中の優勝を狙うためには、二塁手で計上している莫大なマイナスを解消するのが最大の近道となります。
新メンバーの活躍に加えて、糸原健斗の復調、木浪聖也と小幡竜平の成長が優勝の鍵となりそうです。



2021年開幕時の戦力分析はこちら
読売ジャイアンツ編
阪神タイガース編
中日ドラゴンズ編
横浜DeNAベイスターズ編
広島東洋カープ編
東京ヤクルトスワローズ編
福岡ソフトバンクホークス編
埼玉西武ライオンズ編
千葉ロッテマリーンズ編
東北楽天ゴールデンイーグルス編
北海道日本ハムファイターズ編
オリックス・バファローズ編

2020年の打撃成績と投球成績の詳細はこちら
2020年セリーグ・ポジション別wRAAと先発救援別RSAA

昨年の戦力分析です
2020年に向けた戦力分析 阪神タイガース編 Part1

コメント

No title

昨年のドラフトで、二塁手強化に中央大学の牧秀悟選手の指名に注目していましたが、直前でDeNAに2位指名され残念だったのを思い出しました。阪神球団は、二塁手は糸原選手である程度穴にはならないと踏んでるように個人的には思います。今年、優勝予想をしている方が多い印象ですが、糸原選手の出塁能力の復調に加えて、マルテが離脱なく稼働+サンズが失速しないorロハス当たり+アルカンタラ、藤浪選手が通年稼働 ぐらいの条件付きで巨人に張り合えるかな...?と個人的には思っています。管理人さんはどのようにお考えでしょうか。お時間ある際に返信を楽しみにしています。

No title

3年連続で高橋遥人は開幕間に合わず…
ケガも実力とはよく言われますが3年連続ともなると残念です。
リーグ最高レベルのスタッツを持つだけに、真価を見てみたいところですね。

No title

阪神の二遊間、レギュラーである木浪糸原は大きな弱点にならない程度の能力は持っているのですが、その二人が離脱したときの控えのレベルが著しく低いのが、昨シーズンの大きな課題だったと思います。
それを考えるとG山本の補強はかなり的確な補強だったんですかね。

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No title

巷の評論では優勝への課題として「直接対決で巨人に弱い」「守備力の課題」などが取り上げられていますが、ポイントが違うと思っています。直対は士気の上では重要かもしれませんがあくまで1試合。

守備力についてはすでにリーグ平均以上のところまで来ており、ミスが目立つのは難しいベアグラウンドだから仕方ない。あと「去年の巨人の守備が記録的なレベルで高水準だったので比較劣位に置かれただけ」という事実を見逃してはいけない。阪神が悪いわけではないのです。

では阪神が巨人を倒して優勝するには何が必要かと言えば、それはずばりセンターラインです。「梅野と近本がいるじゃないか」と言われそうですが、同じポジションには大城と丸がいるため、優秀な二人でも大きなアドバンテージは作れていない。

さらに問題なのが二遊間で、去年は二塁-38、遊撃-50とここだけで巨人に88点の差をつけられており、この時点で他のポジションが相当頑張っても苦しい。

阪神と巨人は同じように「一三左右はFAや外国人で埋める」という方針をとってきましたが、埋めるのが難しい二遊間で差がついているかたちです。優勝した2003年は今岡と藤本、2005年は関本と鳥谷が活躍しており、優勝するためには「打てて守れる二遊間が必須」ということが分かります。

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 ポジション別wRAAと先発救援別RSAA
 セリーグ パリーグ 各種PF


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三振 四球 FIP
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 2016年 セリーグ パリーグ
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 2014年 セリーグ パリーグ
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 2015年打者の通信簿
  De 西
 2014年選手別守備得点と総合貢献
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 球団史上最高の4人を選ぶ
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■2018年の特筆記事
 現役打者の2000本安打達成確率を考える
 現役20代選手の通算安打(2018年版)

■2017年の特筆記事
 現役20代選手の通算安打(2017年版)
 「8番投手」は珍しいのか?
 2017年各種パークファクター
 2017広島打線は史上最強か?

■2016年の特筆記事
 2016年における2000本安打の展望
 2016年広島打線、得点力向上の要因は?
 2016年各種パークファクター
 パリーグ野手編成と野手運用の私的評価
 セリーグの犠打減少を考える
 糸井嘉男の成績低下リスクを考える


■2015年の特筆記事
 2000本安打の展望
 違反球の再来?2015年セリーグ
 こちらも違反球?2015年パリーグ
 秋山と柳田が挑む、もうひとつの日本記録
 秋山翔吾の安打記録更新の確率を考える
 「余剰安打」で見る、安打新記録の価値
 山田哲人は何位?二塁手シーズンHR記録
 二塁手史上最高の打撃?2015年山田哲人
 30HRと30盗塁の両立
 三浦大輔、23年連続安打
 谷繁元信、27年連続本塁打
 坂本勇人、7年連続二桁本塁打
 阪神タイガース、得失点差-59で貯金
 2015年はどのくらい打低だったのか?
 2015年各種パークファクター

■考察のようななにか
 □分析結果系
 徹底比較 ダルビッシュ有と田中将大
 平成の大投手 三浦大輔
 ポスト松井稼頭央時代の遊撃手総合力評価
 恐怖の8番打者
 稲葉篤紀、現役引退表明
 0本塁打のスラッガー
 シーズン二桁本塁打に関する記録
 20盗塁カルテットに関する記録
 ピタゴラス勝率を用いた采配評価の妥当性
 鈴木啓示の先発勝利に関する疑義
 セリーグの野手世代交代に関する考察
 □分析手法系
 RSAAに守備力補正をかける
 守備イニング推定手法の改良案
 RRFの考え方
 外野刺殺指標試案
 外野補殺指標試案
 NPB版oWAR(試案)

■データ置き場
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 通算 シーズン 奪三振率
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 通算 シーズン K%
 通算 シーズン BB%
 通算 シーズン wSB(盗塁得点)
 投手のシーズン本塁打記録
 セパ年度別 打低打高早見表
 年度別タイトル・表彰獲得者一覧
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